wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

岡野友彦『院政とは何だったか』

本日から授業。行く学舎を間違えてしまいあわてて移動(同業者の某氏とすれ違ったが。来週からは図書館以外ではお目にかかれません)、久しぶりの200名越えの受講者の大教室でホワイトボードのため板書が困難(パワポしか想定されていないようだ)など、誤算が多かったが何とか終えることができた。そういうわけで電車読書も再開し読みさしのまま残っていた本書を読了http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-81065-2。一般向けに中世の始まりとして院政・荘園制・権門体制について解説したもの。権門体制論の登場の背景として「スターリン批判」を持ち出すのは一般書として不必要かつ誤り(「世界史の基本法則」からの転換という点では、中国革命、黒田自身も当事者だった国民的歴史学運動の破綻、諸形態の紹介のほうが重要)だと考えるが、それ以外についてはそれなりの整合性は保たれている。近年一般化している王家ではなく院宮家という用語が使用されているのは9・10世紀の官符を思い出しどうもすっきりしないのだが、個別の諸論点については学問的議論に委ねたい。そもそも平安末から南北朝のある時期までの歴史過程を説明するのに権門体制論以外の枠組みはあり得ないと思われるが、それに反対しているらしい著作が乱発されているようで、わざわざそれを批判するという労を執られたことは望ましい方向だろう。