wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

大門正克『戦争と戦後を生きる』

本日も研究会は続いており、昨日配布されたレジュメから聞きたい話もあったのだが、組合の委員会が入っていたのでそちらを優先。忘年会にも参加したので三連続になってしまった。電車読書のほうは昨日すでに読了済のもので、過日紹介した大先生の放談集で褒めてつかわされていたもの(2009年刊のため出版社へのリンクは略)。岩手から満洲移民に出て命からがら引き上げてきた女性、同じく岩手に生まれニューギニアで戦病死した男性、朝鮮生まれで1934年に来日した男性、東京大空襲に遭遇し叔父が働く京都大江山疎開した女性、中国人言語学者を父とし東京育ちで戦後は台湾228事件に遭遇し大陸に脱出した女性という5名の軌跡をたどりながら、1930年代から55年ごろまでを大日本帝国崩壊から東アジア冷戦への転換、戦時動員と占領改革による社会の平準化の過程として描いたもの。ある程度知識をもった読者の読み物としては大変面白く、個々人の生存のあり方を通じて当時の時代相がよく見えるものになっている。ただしこれをもとに授業ができるかというとしんどく、通史シリーズの一冊として、無条件で絶賛の対象とできるかはやや疑問も残るところ。