wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師・研究員などとして生活の糧を得ていますが、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

伊藤俊一『荘園』

引き続き電車読書の備忘。初期荘園から応仁の乱後までの通史、著者の専門と異なり院政期の領域型荘園の成立までで1/3以上の分量を取る一方で、中塚武氏の研究に依拠した降水量と気温の変動を取り入れ、室町期の代官の類型化を図ったところが特徴的。それ以外はオーソドックスな通史で、新書版に過不足なく情報を入れ込むことができた筆力に感心。なお細かいことだが、223頁「守護赤松則祐の側室の七々局」というのはどういう根拠によるものか。恥ずかしながら拙稿でも見落としていたのだが、熱田公「播磨国矢野荘と『守護所縁女性』たち」(『塵界』9、1997年)で尽きており、則祐後室の奉者として活躍。それと別に深刻なのが、はじめにⅲ「一九七〇年代までの荘園研究に問題がなかったわけではない」として紹介しているのが、石母田古典学説そのままなこと。70年代までにはそれは克服されており、あとがきでそれらの論者をあげる著者は当然理解していること。誰が始めたのかわからないが、戦後直後の学説で70年代までの営みを劇画化するのは冒涜としかいいようがない行為。

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