wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

国枝昌樹『シリア』

本日の台風休講の補講でようやく授業は修了。一ヶ所を除き15回授業はきつく、準備と後処理で時間をとられ、勉強はほとんどできなかった。昨日から試験も始まっており、これからしばらくは採点に追われそうな状況。体調も相変わらず絶好調とはいえず、寝ていることも多いが、ようやく読了したのが本書。この間の報道でも何が起きているのかさっぱりわからないシリア情勢について、流布している情報と異なる立場から執筆されているようだったので購入してみたものhttp://www.heibonsha.co.jp/catalogue/。2006~10年までのシリア大使という経験を活かした公開情報と個人の情報源をもとに執筆されたもので、1.現バシャール・アサド大統領は兄の死去で後継者に指名されるまでは、眼科医としてイギリスに留学しており、大統領就任後も上からの体制改革を進め、生活も湾岸産油国の王族や独裁者のような豪勢なものではなく、今日のアラブ世界では「先進的」と評価できること。2.民衆のデモは報じられているほど大規模なものではなく体制派でも反政府派でもない広範な中間派が存在していること。3.アルジャジーラの報道にはかなり誇張があり、有能な記者が退職するなど矛盾も生じていること。4.反政府派にはまとまりがなく、テロ活動が横行していること。5.今回の事態は中東世界の政治的中心がイスラエルとその周辺から石油産出国に移動するという大きなうねりの中で捉えられるべき現象であること。などが指摘されており、いろいろ勉強になった。もっとも反シリア姿勢を明確にしているトルコ・カタールサウジアラビアと、その背後にあると考えられるアメリカ・フランス・イスラエルなどの状況は事実関係が整理されているが、根本的なところは明言されていないのは著者の慎重な姿勢とはいえ気になるところ。これまでに読んだ本でも感じたが浅井基文以来テクノクラートとしての日本人外務官僚の分析能力はバランスがとれており大変優秀で、どうしてそれが外交政策にいかされずアメリカべったりになってしまうのだろうか。特に今度の尖閣列島問題での大使更迭はかなりの火遊びで、とんでもないことにならないことを危惧するばかり。