wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

小宮山章・加藤正吾『森の来歴』

本日から近所のシニア・コースも始まり、春のルーティンが本格化。当初の見積もりより時間を費やしてしまっており、来週の準備も明日までずれ込む状況。そういうわけで、少しだけ残った電車読書を片付けておく。小宮山氏は1980年に岐阜大学農学部助手となり、研究室の専好生(著者の造語)とともに実施してきた美濃・飛騨の二次林4ヶ所・原生林2ヶ所の調査記録をまとめたもの。全体の植生図を作成した上で、100m四方の調査区を設定、そのなかの樹木のサイズ・年齢を測定し経過観察、聞き取り・文献調査を実施、それらとデータ分析で森の来歴を明らかにするというのが方法論とのこと。それにより軍馬の放牧地、鉱山に伴う炭焼き、明治維新・第二次大戦後の近郊林の過剰伐採、治山ダムの建設といった人工的契機、伊勢湾台風、白山の噴火といった自然的契機によって、対象とする森林群が形成されたという。その上で、放棄された広葉樹二次林は成長途上にある、樹種の喪失が起こると二次林は原生林に回帰しない、原生林は常に変わらないとはいえなさそうとされる。とりわけ開発による森林の分断化・病虫害の蔓延・野生動物による加害・阻害種による停滞による現代の混乱は著しく、観察を続ける必要が説かれる。林学による森林調査の方法がよくわかり勉強になった。ただ2000年に農学部助手(現在は改組された応用生物科学部准教授)となった加藤氏との執筆分担は明記されておらず、読後の印象はほぼ小宮山氏の単著。

京都大学学術出版会:森の来歴