wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

秋田茂『イギリス帝国の歴史』

昨晩は一度目が覚めただけだったがやはり眠たい。いつもは夏休み後半の症状なのだが、今からこれでは思いやられるというか、片付けなければならない仕事が山積みで気合いを入れ直さなければならない。電車読書が後期用のものになっているのが、よくなかったのか・・・http://www.chuko.co.jp/shinsho/2012/06/102167.html。それはさておき18世紀の商業革命から第二次大戦後の植民地独立に至るイギリス帝国の歴史を、グローバル・ストーリーの視点から概観した本書は大変有益。ウィリアムズ・テーゼ、自由貿易帝国主義、ジェントルマン資本主義、アジア間貿易などキー概念も研究史をたどりながら整理されており、巻末の索引からも引くことができる。とりわけインド経済が帝国に占める位置づけが統計資料を使って説得的に示されており、近代日本の非公式帝国からジュニア・パートナーへの転換もより理解することができた。またスターリング圏の形成と解体における本国とドミニオン・植民地の関係の変容は今回初めてまとめて知ることができ、そのダイナミズムが戦後日本経済にまで関係していることには驚かされる。紙数の都合から個別の論点への深い追求は見られないが、入門書としては最適で安心して学生にも勧めることができる(これぐらい理解してほしいところなのだが・・・)。GDPからみたアジア経済の主導性・シティの金融センターとしての位置づけなど余りにも現在との連続性が強調されている点は身も蓋もない感もあるが、「比較」と「関係性」という視点はやはりこれからの歴史学にとって最も重要だろう。