wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

清水透『ラテンアメリカ五〇〇年ー歴史のトルソー』

本日は公務出張で中播磨、ほぼ歩きづめだったのでかなり疲れたがいろいろ勉強になった。火曜日に京都で団交に参加したこともあって読み進んだ表題書を読了https://www.iwanami.co.jp/book/b330645.html。学部四回生の時に「新しい世界史」シリーズが刊行されちょうど卒論の時期だったがすっかりはまり、購買部(当時は生協がなかった)で並ぶとすぐに購入して読み進めていた。何れも史料の範囲を大胆に広げた著作でいろいろ影響も受けたと思う。そういうわけで執筆メンバーの著書は勝ち組歴史学に走った山内昌之氏を除き、目についたら読んで勉強させてもらっている。表題書の著者もその一人で、同シリーズではメキシコ・インディオへの聞き取りで組み立てられていたことが印象に残っている。本書もそれを前提としつつコロンブスから現代までの通史を叙述したもので、原著は2015年刊行とのことだが今回はトランプ政権の政策までカバーしており、全体に非常に勉強になった。コロンブスの「発見」以後の「新大陸」が、西欧人にとって「幻想領域」として自由に活用でき、不必要なら放置される空間として扱われてきたとし、アメリカによる「裏庭化」も「自然空間」として利用し尽くす過程としては、連続していることが示され、それが「民主化」の一方で「伝統派」によって権威主義的に再構築されたインディオ村落から直接アメリカ移民が生み出されるという「液状化」した現代までが、一貫した筆致で提示されており、絶望的な話も少なくないにもかかわらず一気に読み通せた。また実用的にも逃亡奴隷の多さと王国まで構築し現代にも影響を与えていること、カトリックの受容のされ方、シモン・ボリバルの問題点、19世紀の債務奴隷制など、講義内容の修正点を色々教えられそれも有益。なお「トルソー」とは手足首のない胴体という意味もあるが、太い流れという意味で用いているとのこと。