wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

須賀丈・岡本透・丑丸敦史『草地と日本人ー日本列島草原一万年の旅』

本日は講義で印刷プリントが足りないという大失態をしてしまう。受講者が余りにも少ないので油断していたようだ。相変わらず花粉症はぐずぐずしており気分も乗らないが、電車読書のほうは、ここ数年関心を持っている自然史系の著作http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1434-7.html。草地の生態系が氷期に大陸からわたってきたもので、野焼きなど人間活動の人為的攪乱によって森林化されず半自然草原として長らく維持されてきたこと。黒色土の花粉分析と絵図・写真史料などの分析から人間活動の進展に伴い草地が広がり国土面積の10%以上を占めるようになったこと(現在は1%)。田の畦が里草地と概念づけられた草地生態系を維持している空間で圃場整備と耕作放棄により急速に生物多様性が失われていることなどが、述べられている。草肥のための草山の重要性は近年指摘されるところだが、それが自然史の観点からまとめられており非常にわかりやすい。とりわけ畦畔が草地であるという指摘は、棚田は斜面の草を刈って下の田に草肥として入れることができる大変合理的なシステムということになり、その観点から棚田の普及を考える必要があるだろう。なお少し気になったのは動植物の分布など生態系の問題が背景にあるのだろうが、はげ山から薪炭林までを草地景観に含めて、森林景観と対比しているところで、人間活動に焦点を当てる歴史学からは別の見方がされるべきだろう。文献史学として早急に解決しなければならないのは史料用語と景観との対応関係で、はげ山(中世文書ではあまり記憶にないが)が本当に岩肌むき出しなのかなど、記録者による有用性認識をふまえて検討する必要がある。