wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

米倉久邦『日本の森列伝』

ようやく風邪が治ったと思ったら連休も終わり、本日は専門科目の非常勤二コマ。ただし履修者には日本史専攻以外の学生も混じっており、どのレベルでやるのかは迷いもの。特に前期マン・ツー・マン旅引付に、いきなり後期から他学部専攻の留学生がやってきたのは大弱り。本日終了後に「難しい」と言ってきたので、「続ければ単位認定の方法は考えるが、あなたのレベルには合わせられない」と答えたが、果たしてどうなることやら。すでにアラカルト型に転じた大学と異なり、ここは専門指導をしているはずなのだが・・・。そんな中、夏の間あちらこちらを引きずり回し、途中空白期間もあった表題書をようやく読了。ここ数年森林資源をめぐるあれこれにはまっていて、某所で紹介されているのを見て衝動買いしたものhttp://www.yamakei.co.jp/news/release/20150515.html。著者は1942年生まれで共同通信論説委員長を経て、森林インストラクターの資格を取ったフリー・ジャーナリスト。北海道の北限ブナ林から、西表の北限マングローブの森林まで12か所の天然林について、現地踏査の記録、そこを熟知している森林研究者への取材および関連文献から、歴史的経緯と現状についてまとめたもの。天然林といっても多かれ少なかれ人間による伐採の手は入っており、その中での生態系の遷移や更新の在り方、伐採がもっとも進んだ明治および昭和戦後(もはや普通名詞として「戦後」は使えなくなった)の様相、地球温暖化・公害・シカの食害などによる近年の急速な生態系の変化とそれへの対処に関する議論(放置or植林etc.)などが、新書とはいえ平均30頁弱の分量でまとめられており、読みごたえがある。やや東国に対象が偏っているが、そこでも中世の初めからかなりの伐採が進められていた証拠が挙げられており、勉強になる。また比叡山延暦寺に森林管理部という組織が現存していることも初めて知った(中世の「山守」の後身ヵ)。当方は一度ゲスト・スピーカーに呼んでいただいただけだが、この分野はまだまだ学際的研究の可能性が高いことが実感されるところ。