wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

本郷恵子『蕩尽する中世』

本日は再来週の大分旅行のための事前勉強会で13:00に始まり、終わったのは21:00になってしまった。その間の中断時間などを利用してこの間の電車読書の続きを読み終えるhttp://www.shinchosha.co.jp/book/603696/。中世の富の流れについて、12世紀を院政に富が集中する過剰なエネルギーに満ちた時代とし、平氏滅亡後は経済の主体は政権担当者から民間の金融業者や山僧・神人らに移り、荘園領主の経済圏と金融業者の経済圏とが互いに支え合っていたと評価する。また武士の支配は粗暴で直情的である一方で、負担は下位に転嫁され、受領に淵源する事務担当の複雑な操作によって支えられていたとする。ついで悪党について取り上げられ実力と資金力で下位への負の連鎖にくさびを打ち込む可能性を評価する一方で、結局は戦争へと収斂したとする。さらに室町時代を贈与のルール化・美術品の換金など「モノの経済圏」と「現銭の経済圏」の姿を変えたとし、その延長線上に「名物」が評価される統一政権をおき、社会が蕩尽と消耗から脱却し、再生産体制の構築へと向かう動きと連動しているとする。著者がこれまで取り上げてきた事例の繰り返しによるややマンネリ化も少し目につくが、興味深い事例の紹介と読ませる文章はさすがで、一般書としては安心できるものになっている。研究史との関係や専門研究の立場からはやや気にかかるところもあるのだが、それについてここで論究することは省略したい。