wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

古市晃『倭国』

本日はルーティン姫路。改修工事と換気で暖房が貧弱なためついにパッチ・デビュー、午後は冷えてきたが何とか乗り切る。電車読書は以前からいろいろお付き合いのある方によるもので、ありがたく購入させていただいた。記紀に登場する王名に含まれる王宮地名について実態を反映したものと捉え、奈良盆地南部の軍事的要衝を拠点とする仁徳系・允恭系を二つの中枢王族、それ以外の奈良盆地北部・京都盆地南部・大阪湾岸を周縁王族と評価、五世紀の外交関係はそれら周縁王族と葛城・吉備・紀伊と海人集団によって担われていたと位置づけ。古市・百舌鳥古墳群の存在を根拠とした強固な中央政権ではなく、共和的なゆるやかな連合政権に過ぎなかったと位置づけ、播磨国風土記を通じてその様相を分析。中枢王族相互の凄惨な対立、周縁王族への弾圧、百済の一時的滅亡による外交関係再編の必要性などにより、近江を軸に北陸・東海の勢力を背景とする継体が登場。その後の世襲化、国造制・ミヤケ・部民制により副題とする古代国家の道が開かれたと結論する。文献史の手法で五世紀史に切り込むという大胆な試みで、論証過程を見せる叙述は丁寧でいろいろ勉強させてもらった。ただ王宮の貧弱さを墳墓儀礼が補っていたとしながら、激しい対立のなか、どのような仕組みで巨大古墳が造営され続けていたのかについて論究がないのはやはり片手落ちの印象を受ける。最後に6世紀史の素描をするよりもその点をまとめるべきではなかったか。

『倭国 古代国家への道』(古市 晃):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部