wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

山下祐介『限界集落の真実』

今回の東京旅行に持参した二冊の内(もう一冊は途中までしか読めなかった)。タイトルはややセンセーショナルだが、中身は非常に面白い。まず1988年に提起された限界集落論がマスコミを賑わせた状況がその背景とともに示され、現実には近世前半より続くムラがダムによる移転などといった人為的要因以外で消えた事例は今日でもほぼ皆無であるものの、山村を中心に超高齢化集落が出現しつつあることが紹介される。その上で戦後日本社会の人口変動パターンに一貫して人口が上昇し続けている中心都市型、1960年代に人口を排出するも70年代以降に人口増加に転じる北関東などにみられるN型、同じく60年代に人口を排出しベビーブームによる若干の回復は見られるもまた減少に転じる地方社会に典型的なM型(最大人口は60年頃のパターンと80年頃のパターンがある)、60年以後は人口が減少し続ける過疎地域があり、戦前生まれの親は先祖伝来の土地を継承して暮らし、長男は何かあれば駆けつけることのできる地方都市に居住し、次男以下は大都市に移動する世代間の棲み分けとしてみることができるという。そして限界集落問題とは2010年代は過疎地の人口分布の中核となってきた昭和一桁世代が高齢化を迎えており、その生活資源・文化的資産をいかに継承していくかが課題なのだととされる。そして著者がフィールドとしていた青森県内の事例が紹介され、戻る意志のある子ども(50代ぐらい)が意外におり、それをサポートすることこそ重要であるという。さらに集落の主体性をいかした取り組みの重要性と、震災に見られたような中心による周辺への不理解という日本社会の認識構造全体を再構築することこそが必要で、巨大システムの欠陥を克服するためにも生活システムが個人のコントロールの範囲下にある小さな地域社から閉塞状況からの再生の展望が開かれるというhttp://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066480/。おそらくこの1・2年が巨大システムの暴走による日本社会破壊への道に突入するかどうかの分岐点にあり、戦後日本社会の変動とムラの意義を再確認することができ、久しぶりに聞き取り調査もしたくなった。少し残念なのは著者の前任者は名古屋大学に、著者自身も首都大学東京弘前大学から転任していることで、地域とのかかわりという点で少し違和感が残るところ。