wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

山下祐介『地方消滅の罠』

連日になるが、年末年始の電車読書の備忘http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480068125/。昨年5月に発表された「2040年までに全国の市町村の半数が消滅する可能性がある」から「人口ダム」を設けて「選択と集中」を図るべきだという、いわゆる「増田レポート」に対する反論とオールタナティヴな提案を試みたもの。他にも類書は刊行されているが、著者の前々著から読んでいたため衝動的に書店で購入してみたもの。興味深かった点として、①2008年度から築47年から築10年に建物処分制限期間が短縮されたことで、小中学校の廃校が急速に進行したこと(市町村合併だけが原因ではなかった)。②レポートの背景には小泉改革以来の新自由主義的人間観があり、「国家のあり方を考えれば、すべての町を救うべきではない」、むしろ「地域を存続させるよりも、早く死に追いやり、淘汰することが自分の仕事だと考える行政マンや政治家ができているとしたら、それは非常に危うい段階に」なりつつあること(Twitterエリートの地方蔑視論はさまざまなバリエーションで見ることができる)。③団塊グランチャ世代がベビーブームにならなかったこと(ここ数年の出生率の上昇がその最後の灯火だとされるが、2000年代がいかに若者世代に過酷なものだったかを示している、少年犯罪が起こると発生した親パッシングも影響しただろう)。④過疎自治体の人口獲得戦略やふるさと納税が際限なき競争という点でレポートの論理を裏返しにしたものに過ぎないこと。などである。もっともそれに対して著者が対置するのは、①理念としての「多様性の共生」、②具体的政策としては住民票の二重化によって、人々が大都市や都会だけではなく、地方や農山漁村にも所属すべきというもの。ただし後者は強制できるものではなく、人々の支持を得るためにはむしろ国民国家理念を強化する必要がある点が難点。なお著者はレポートと区別して安倍内閣に期待しているようだが、今年になって打ち出されている「地方創世」政策はレポートに沿ったものに見える。その上に20世紀の遺物であるリニア、地方交通体系の破壊にしかならない整備新幹線事業という公共事業を積み上げたもので、まさに破綻への道を突っ走っているとしか思えない。