wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

坂根嘉弘『〈家と村〉日本伝統社会と経済発展』

昨日は土曜日の講演の準備で終わる。最後にとんでもない史料に気づいたが組み込めず。地域の歴史像が大きく変わるはずだが全く無視されているのではないか。もっとも現存文書の全体像がつかめず詰めるのには時間がかかりそう(もしかしたらわかっているのに、敢えて触れられていないのかもしれない)。本日の講義はイスラーム。宗教は悪・欧米こそが世界という感覚の受講生相手はやはり難しい。こちらの意図が伝わったのは一割ぐらいか・・・。そうしたなか縁もゆかりもない研究会の案内で知った本書をこの間の電車読書で読了するhttp://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54011238/。アジアレベルの比較史に基づき日本社会における嫡子単独相続の成立を高く評価し、それを前提とした家と村の安定性・固定性が、長期的視野に基づく投資の姿勢、安定した地主・小作関係に基づく地域発展、相互干渉的な濃厚な人間関係による「村など中間団体の活動が国家費用負担を低減させたという、相続依存型経済発展を主張するもの。なお鹿児島は分割相続地域で、東南アジア的と評価されている。目次を見た時には故河音能平を想起したが、著者は封建制自治村落論を前提にすることは比較の視野を狭めるとして否定的で注でも触れられていない。経済発展という観点から著者が挙げている事例はたしかに説得的なのだが、かつて封建的とされた日本的家と村の評価がここまでくるとある意味で驚かされるところ。もっともこのシステムは相続者以外は村外に追い出されることを前提としたもので、近世後期の人口停滞、昭和恐慌と満蒙移民など、そこにはらまれた矛盾に一切触れられていない点は全体史を考える上ではやはり問題だろう。ともかく書評会でどういうやりとりがされるか聞いておくことにする。