wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

『現代思想11月臨時増刊号総特集宮本常一』

木曜日は出講先がなく週5種類分の授業準備の日に当てているのだが、掃除と冬支度に時間がかかってしまってまだ3種類しか終わっていない(うち2種類はほぼ使い回しのため実質は1種類のみ)。ゆっくりしている暇はないのだが、昨日読了した電車読書について書き留めておく。本年度は2種類の講義で民衆史を掲げたため(といっても迷走しており、本日作ったのも室町の贈答と食文化になってしまった)、民俗学関係に目が行きやすくこれもたまたま書店で見かけて購入したものhttp://www.seidosha.co.jp/index.php?%B5%DC%CB%DC%BE%EF%B0%EC。宮本については『忘れられた日本人』他いくつかを読んだぐらいで全くの初心者だが、その思想の全体像についていろいろな角度から議論されていて全体的に興味深かった。安岡正篤との関わりや、それについて藤田省三から転向論で触れられたことについての反応、運動に挫折した左翼知識人の接近、離島振興運動への関与をめぐるもろもろの出来事など、ある意味で宮本を座標軸として近代知識人史(1960年に発表された岡本太郎深沢七郎との鼎談も収録されている)・農山漁村史ができるぐらいのスケールがよくわかる。島嶼社会論・国際フィールドワーク論などあまり聞き慣れない分野からの論考も、フィールドを縦横に回っている立場からの新鮮な感覚でと勉強になった。また九学会連合の対馬調査が朝鮮戦争のさなかで、しかも領土問題と関わっていたことや、日本人類学会のメンバーがなぜか広島医大と長崎医大で構成されており、しかも国民的歴史学運動が力を持っていた歴史学会は関与していないなど(日本宗教学会による対馬島民の呪術慣行に関する研究に田中健夫の名前があるのみ)、その背景についても初めて知ることが多かった。こういうのを読むとこれまでいかに不勉強だったかが痛感させられるところだが、才能のない身としては事実をベタに積み重ねるしか仕方ないのだろう。