wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

関周一『対馬と倭寇』

本日は京都で室町のお勉強。いろいろ得ることが大きかったが、なかでも政治史の報告には驚かされる。当方は知らなかったが、先行研究のある既知の史料の読み込みから全く違う像が紡ぎ出され、歴史学の醍醐味が実感できるものだった。何れ活字になるということだが、近年の研究では全く見落とされている論点で、これを知っているかどうかの違いは大きい。電車読書のほうも、進展著しい海域アジア史に関するもので、先般の学会で購入したものの一冊http://www.koshi-s.jp/shinkan/1210_1-shinkan.htm。全体は五章立てになっており、第一章が古代・中世対馬史の概説、第二章が倭寇と偽師に関する概説で、最新の研究成果を知ることができた。第三章「モノが語る倭寇の活動」では仏像など仏教関係・考古史料・中国商品などの流通を描いたもので、朝鮮の梵鐘を模した日本製のモノがあるなどいろいろ興味深い事実が指摘されている。第四章「対馬島に生きる中世人」は課役と生業という島内のあり方が、第五章「三浦と対馬倭人」は朝鮮南部の居留地である三浦の様相が描かれ、両者をリンクさせることで、幕府によって対馬島守護に任じられていることを前提に、朝鮮との両属関係があったことが説得的に示されている。驚くほどのものはなかったが、日韓の研究状況も紹介されており、いろいろ勉強になるとともに、あとがきに記されたODの悲哀は同業者として共感できるものだった(残念ながら当方は科研の研究協力者にも入れてもらえないが・・・)。今週の講義レジュメに組み込むことはできなかったが、ぎりぎり頭に入れることはできた。