wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

小林英夫『日本の迷走はいつから始まったのか』

本日は授業終了後に雑用があり、四日連続で夕食は外、帰宅したのは九時過ぎで、家の雑用を処理しているうちにこの時間になってしまった。学生から集めたカードの処理というルーティン・ワークすら昨日から積み残したままで明日以降に持ち越しになりそうだ。そういうわけでブログを書いている場合ではないのだが、昨日読了した本書を簡単に片付けておく。出版時には気にとめなかったのだが、某ブログで紹介されていたのと、手に取ってみた「おわりに」に編集者から「日本が沈みつつあるのに近代史家からの発言がないのはおかしくないか」との指摘を受け、現在の日本の「迷走」と「停滞」の淵源を示し、今後の指針を提起することができたと思うという文章を読んで購入しようという気になったもの。キーワードとされているのは世界ルール(イギリス覇権・第一次大戦での転換、世界恐慌後の混迷、冷戦とアメリカ覇権、ソ連崩壊とグローバル化新興国の台頭とネットワーク化)へのキャッチアップの成功と変化への対応の遅れと、軍事力や経済力といったハードパワーと文化力や外交力というソフトパワーで、前者で有利に立てば成功するが混乱期には後者の不利が露呈し前者でも出たとこ勝負になるという。全体の論旨には大きな異論はないが(やや戦争への必然的道を強調しすぎているようにも思えるが)、これで今後の指針が得られたとはやはり思えない。特に問題だと考えられるのが小選挙区比例代表制導入について、選挙区の小規模化が地域利益の代表を選出させることになったという評価である。むしろ都市部を中心に地域の生活への関心が欠如した政治家を多数生み出すことになったことが問題で、中央・地方間の従属性を決定的にしたところにグローバル化における「混迷」と「停滞」の要因があるのではないか。紙数に制約があり仕方がないところだが、近現代史を通じて一貫して抱えられている中央・地方間の矛盾が全く捨象されているのはやはり問題だろうhttp://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784098251070