wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

武田尚子『「海の道」の三〇〇年』

昨日読み終えブログを書き出したが、あらすじを追っかけすぎて一時間かけても終わらないという時間の無駄をしてしまったのが本書。瀬戸内海・鞆の向かい側に位置する田島・横島について、島を基盤としながら外に出て行く生業である近世中期からの五島列島での捕鯨業、明治後半からのマニラ移民、戦後の南氷洋捕鯨。島を巡る漁業環境の変化としての近世の網漁法と麻綱問屋、明治期の打瀬網漁をめぐる漁業紛争、戦後の小型底引き網漁船の淘汰、高度成長期の造船下請けへの吸収。輸送・エネルギー環境の変化としての近世廻船、石炭輸送と造船業、石油基地と原子力船母港誘致、LPG誘致と反対運動について、島をとりまく階層構造の変容が次の時代につながり、地域ボスと宮沢喜一のような政治家も関わってくるという非常に興味深い通史となっている。各種の文献資料とともに個人インタビューによるライフヒストリーと環境変化、運動主体の成立など、いろいろな絡み合いから近現代社会の変容が描かれており大変勉強になった。著者は社会学者ですでに研究書を上梓しておりそれを一般向けにまとめたもののようだが、文章もわかりやすかった。このところ新本屋で見かけて衝動買いしたものは外れ続きだったが、久しぶりにヒット作品となったhttp://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309624297。日曜日は史料めくりを優先させ著者と同僚になる東京の公募は断念した。京都は証明書を取らなければならないようで、木曜日に大学に行くことにするがすぐに発行してくれるだろうか。喉の痛みも再燃しており、すっきりしてほしいところ。