wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

瀬田勝哉『戦争が巨木を伐った』

本日は刀剣史のオンライン定期試験、はじめてのテーマで、講義では受講者に史料音読、板書は補足のみというものだったが、非常にできがよくて驚く。これで本年度の大学関連業務は基本的に終了、長年懸案になっている論文集へというところだが、とりあえず本日読了した表題書の備忘。「木」研究の先達である著者が指導学生の卒論を契機に、戦時中の「軍需造船供木運動」についてまとめたもの。ガダルカナル島撤退決定後の、43年紀元節に開始され、寺社境内・街道並木・屋敷林といった林業目的ではない巨木を伐採して、木船の用材にするという官製運動の全体像を追求。各地での供出の実像、主体となった翼賛壮年団の動き、メディア・文化人・漫画などの宣伝、全国に展開した木船造船所の状況を示し、熟練工・取り付ける燃料機関不足に加え、国有林ならまだしも単発材は一隻の船に使いにくいため、かなりが戦後に持ち越され、建築用などに払い下げられ有効活用、横流し・隠退蔵物資として闇に消える、死蔵して腐敗・流木となり、伐採されたことすら記憶の彼方に消えていったとし、地元の翼賛壮年団が消極的だった日光、個人の努力のあった箱根など伐られなかった事例が紹介される。14章立てでそれぞれ最後に課題が列挙されるという中間報告的なものだが、本来専門でない近代史に踏み込んだため逆に実証手続きが詳細に示され研究入門書としても読めるもの。それでも中世史研究を後回しにしてまで取り組んだのは、これをきっかけに最後の記憶が呼び起こされ全国の事例発掘がすすむことを期待したためで、当方もそれに賛同する。

戦争が巨木を伐った - 平凡社