wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

平雅行『歴史のなかに見る親鸞』

本年度は親鸞を宗祖と仰ぐ教団関連の大学で講義を持たしてもらっている。いまのところ講義で仏教関連は六勝寺・御願寺領ぐらいしか取り上げていないが、理論武装のためということもあり購入して読了したもの。著者の親鸞論は中世史学界では確固たる地位を占めたもので、これまで勉強させてもらってきた大枠は本書でも変わりない。しかし親鸞の誕生から伝記的に全生涯をたどりながら、彼が立ち向かい、場合によっては跳ね返される中世社会の構造を概説し、その思想形成・確立・「破綻」を跡づけた本書は、中世史家の記した人物論としてまさに名著というべきもの。純然たる学問とは別個な人間的な共感を表現するために意識的に用いたという講演調の文章も大変わかりやすく、著者が親鸞に注ぐ思いが直接感じられるとともに、実証を丁寧に見せるという点でも効果的。中世寺院の合理的側面の指摘や、上横手雅敬説を紹介しての建永の法難での死刑が後鳥羽による私刑説(法然上人絵伝の評価とも関わる、私自身は検非違使による処刑場面という説明に長らく違和感を感じていた)、流人論など学問的にも興味深く、一部の研究への痛烈な批判も痛快で、一般書としても学術書としても通用する高レベルなもの。これだけの本を読むとやはり授業でも紹介しなければならないだろうhttp://www.bukkyosho.gr.jp/main.aspx?ISBN=978-4-8318-6061-3