wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

深谷克己『東アジア法文明圏の中の日本史』

本日は講義なし日なのだが、年始からの絶不調状況で全く失念していた忘れ物を金曜日の非常勤先に取りに行くなど(幸か不幸か明日は休校日)のため、電車読書を進めることになり、来年度から始まる「外来文化と日本の歴史」のために購入した表題書を読了http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/1/0245170.html。戦前・戦後を通じて通説的地位にあった脱亜論的日本異質論に対して、漢字文化、仏教・儒教道教君主制民本主義、平等主義的百姓安民論などといった共通の政治文化をもつ、東アジア法文明圏と捉え、対抗王朝形成としての日本の古代化、王権から政権の分出という中世化、イベリア・インパクトと秀吉の中華皇帝化への欲望と失敗、日本の東アジア化と日本化が同時並行的に進行する近世化、ウエスタン・インパクトと中華皇帝化としての復古的近代化という流れで評価するもの。それによって猜疑の近代に対して「希望の種子」として、儒教的政治文化がはぐくんだ政道論としての「民本」「平均」「太平」「徳治」「教諭」「百姓成立」などからハイブリットな種の発明を期待する。近世日本で明律が受容されたこと、琉球を経由してもたらされた中国書、前島密の江戸遷都論(講義で浪華遷都論は取り上げているが)など、新しく知る事実がいろいろあって勉強にはなった。ただ秀吉の中華皇帝志向は村井章介説以来の蓄積があり、近代についても一世一元など陽明学の受容という見解もすでに示されており、全体の枠組みはそれほど目新しいものとは思えなかった。また古代・中世はまだしも、近世社会がウエスタン・インパクトによって生じた反応は余りにも断片的な叙述にとどまっている点も不満。そこの評価こそが異質論を批判する上でもっとも重要になるはず。ともかく明日からは三連休。何とか論文に取りかからなければならない。