wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

細川重男『北条氏と鎌倉幕府』

電車読書としては久しぶりに日本中世史の著作(前にも記したように、専門研究のために自宅で読む著作・論文はここでは取り上げない)。このところ書店に並ぶ一般書に興味がわかず購入していなかったためだが(実は専門書も同様なのだが・・・)、同世代のOD(向こうが三年上のようだ)のものということもあり、二冊相次いで刊行されたうちの一冊を購入して積んでおいたものを月火で読了した。はじめにで北条氏はなぜ将軍にならなかったのかという問が発せられ、おわりにで「将軍権力代行者」となった北条時宗が①鎌倉将軍は、武家政権創始者源頼朝の後継者である。②北条氏得宗は、八幡神の加護を受けし武内宿禰の再誕北条義時の後継者である。③義時の後継者である北条氏得宗は、鎌倉将軍の「御後見」として鎌倉幕府と天下を支配する。という論理を構築したことで、自ら将軍になる必要もなく、また、なりたくもなかったのであると説明される。全体の構成は首尾一貫しており、途中の脱線めいたところも初学者には親切で、鎌倉幕府の概説書として学生にすすめる価値があるもの。武力を観念論で捉えるのではなく、著者独特の表現で具体的に説明されているところも好感できる。もちろん戦後歴史学では余り評価されてこなかった北条時宗を「誠実な独裁者」と高く評価し、従来高評価の安達泰盛をそのプランを後継したのみといえるかどうかは、今後の議論が必要になるだろうし、著者自身が義時=武内宿禰説が石清水八幡宮あたりから創作された論理としながら、幕府(時宗)の自意識へとシフトさせているところには疑問は残るが、それを割り引いても十分に好著といえるhttp://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2584948。それにしてもこういう本を書く機会は与えられないのだろか・・・・。編集者に認められる論文がないのは情けない限り。