wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

竹田いさみ『世界史をつくった海賊』

本書は金曜日には読了していたが、史跡見学記録を書き留めておきたかったので後回しにした。「人類の歴史」を担当することになってから世界史関係の本に目がとまるようになって、これも書店で少し迷ったが衝動買いしたもの。内容は16・17世紀のイギリスが組織的に行っていた他国船への海賊行為の詳細と、その延長線上にあるスパイス・コーヒー・奴隷などの「世界商品」の密貿易に関するもの。西インドスペイン植民地への奴隷密貿易のことは知らなかったので勉強になったが、全体としては軽すぎる。スペインは一貫として強国と扱われているが、16世紀後半以後はブローデル以来戦費による借財を抱えて衰退期にあるというのが通説のはずで、ジャマイカ獲得をイギリスがずっと念願していたというが、川北稔氏によるとそれ自体はたまたまと評価されていたと記憶している。国教会体制も17世紀には革命に見舞われており、一貫した戦略があったように叙述されるのは恐らく事実ではない。あとがきまでたどりついて著者はもともと国際政治の研究者で現在の海賊を扱っていたのが、「清水の舞台から飛び降りる」という心境で執筆されたとあるのに気づいた。道理で納得できるところでよく調べているとは思うが、歴史学者の感覚ではなく「海賊」という問題群のみを歴史から切り取った叙述が、先のような違和感を抱かせる要因なのだろう。財政状況も鑑みて衝動買いは控えなければならない(あとがきで引用されていた本は面白そうなのだがこれも図書館を利用すべきか)http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480065940/。本日は自宅でいただいた本に目を通す。長年の調査成果に下支えされた確かな地域史で、景観をつくり出した諸集団・政治権力の絡み合いと歴史的変遷がたどられており、環境史のお手本のようなもの。やはり近世文書をちゃんと読まないと今やりたいことはできないのかと改めて痛感させられるも、どうしたものか思案中。