wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

杉山伸也『グローバル経済史入門』

本日が本年最後の講義(成人式の振り替え補講。ちょうど明治改暦と祝祭日のところだったのでタイミングはよかった)。この間の電車読書は、すでに先日紹介した女性史研究者などによって形骸化してしまっているとはいえ、一般書では禁じ手の先行研究を戯画化するという手法を駆使したにもかかわらず、「今年の漢字」ということで賞まで取ってしまった同業者のもの、先日の報告に講義の補足をかねて通読した東南アジア史の概説などがあるが、何れも借り物のため詳細は略。本日読了したのがやはり講義のこともあって購入した表題書http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?head=y&isbn=ISBN4-00-431512。およそ16世紀から20世紀までの世界経済を三部構成で、Ⅰ18世紀までのアジアの時代(ただしインド植民地化の過程もここで論じられる)、Ⅱ第一次大戦までの「長期の19世紀」をヨーロッパの時代、Ⅲソ連崩壊までの「短期の20世紀」を資本主義と社会主義の時代とし、エピローグとしてふたたびアジアの時代として論じられている。「幕府の制限政策がなく外国貿易が継続しておこなわれていたとすれば、日本は貴金属の払底した後も経済的に魅力ある国際商品と市場を提供することができ、早期の産業化という別のシナリオの可能性があったかもしれない」(p64)というのがよくわからないが、それ以外は安心して読める叙述。第一次大戦前における日本の国家財政の危機、東南アジア経済のモノカルチャー化、第一次大戦後の世界における金本位制再建問題など従来よりも深い理解を得ることができた。ただし第二次大戦後の叙述は余りも簡略すぎ、もう少し詳細が知りたいところ。なお著者はグローバリゼーションは不可逆的な歴史のプロセスとし、日本のTPPをめぐる議論のなかに「ガラパゴス的状況」があると指摘する。グローバリゼーションの評価は確かにそうなのだろうが、著者も政策的失敗とする食糧の自給率をさらに下げるのは得策とは思えない。多国籍企業と国家との関係については(TPPも両者がからんだ問題)もう少し整理してほしかったところ。明日・明後日も出かける予定があるが、電車読書はこれで最後になる見通し。皆様よいお年をお迎えください。