wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

大阪大学歴史教育研究会編『市民のための世界史』

昨日ようやく読了した電車読書の備忘http://www.osaka-up.or.jp/books/ISBN978-4-87259-469-0.html。面識がないにもかかわらず、ひょんなことから接点をもつことになっている方が主要メンバーのため憚られるが妄言多謝ということで・・・。当方は2007年度から「人類の歴史」という半期科目を担当していることもあって(今年も9月から始まる)、某学会で毎年出会う高校非常勤時代の「教え子」から購入したもの。
1.序章「なぜ世界史を学ぶのか」・通史13章・終章「どのように世界史を学ぶのか」の計15章からなり、実際に教科書として用いられているらしいが、各章の内容が盛りだくさんすぎ、90分でできるとは思えない。内容については高校世界史Bより確かに精選されているのだが、その割に各章の末に示された「まとめと展望」というタイトルの課題は、各自がこれまで「蓄積」してきた知識を前提とした上で、ここで提示した視角を用いろというもので、「蓄積」のない学生には歯が立つものではない(「レベル」の差といってしまえば、それまでなのだが)。
2.通史部分は、モンゴルまでが計3章、「世界史的近世」と位置づけられている15~18世紀が4章、19世紀が2章、20世紀以後が4章という構成になっており、当方の実践(モンゴルまで5章・18世紀まで3章・19世紀が2章・20世紀5章)と比べて、中間部分が分厚い。19世紀までを含めたこの部分がもっとも読み応えもあるのだが(個人的には勉強になり、全体にめぼしい図版が少ない中で196頁のアジア間貿易の図解は非常にありがたい)、中心執筆メンバー二人の専門分野という以上の理由があるのか不明。
3.逆に20世紀の薄さは非常に不満。義和団日露戦争を分離させたのもひっかかるし、両大戦の叙述は余りにも簡潔すぎ。これぐらいはみんな分かっているはずだというのは、余りにも楽観的すぎではないか。しかも13章で現代世界の問題が2013年時点の情勢を許にダラダラと叙述されているが、グローバル化とIT化以外の問題の直接的な淵源は第二次大戦終結から「冷戦」期に求められるにもかかわらず、余りにも切れた形になっているのではないか。世界史という方法的視角に立つならば、むしろその部分の叙述を充実させるべきではなかったか。
4.個別の点として、p229「日本軍が残した負の遺産の多くについては、敗戦直後の戦争犯罪の裁判や、国家間の賠償交渉で決着済み」とされるが、日本政府の公式見解としてはそういえるが、「現実には冷戦によってうやむやに置かれた」という立場は間違いという主張なのだろうか。p282で推薦されている対談集は「お東大先生」の著作解説以上の価値があるとは思えない。