wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

吉川真司『飛鳥の都』

積んだままになっている本は多数なのだが、授業準備に使うため(1コマはすでに通り過ぎてしまっているが)金曜日で購入して日月で読了したのが本書。岩波新書日本古代史シリーズの三冊目で七世紀史を扱うhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1104/sin_k584.html。著者は大化の改新など戦後歴史学で否定されてきた日本書紀の叙述をそれなりの信用性があるものとして再検討を進めており、本書もその立場から執筆されている。東アジア史の検討を踏まえた上で描かれた全体像はそれなりに説得的で、唐の膨張に伴う朝鮮諸国のクーデタと並行した大化の改新後を「未熟な時期」として初期律令体制、白村江後の臨戦体制が取られた天智期を律令体制成立期、唐の膨張が収束した東アジアの緊張緩和期となる天武期後半を律令体制確立期と区分している。ただしその途中である斉明期、壬申の乱については単なるエピソードとして済まされ、律令体制につながる一貫した流れがあったように読み取れるのだが、果たして支配層が一致してある体制の確立に向かうことなどあり得るのだろうか。かなりの路線対立を想定するのが当然のように思えるのだが・・・。また665年の木簡で改新期の制度が論じられるのだろうか。孝徳を捨てた難波から飛鳥への揺り戻しはかなり大きかったのではという素朴な疑問がぬぐえない。それはさておき先に八世紀の通史を描き、続いて七世紀の通史を描く著者の精力的な仕事には感心せざるを得ないところ。