wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

岡本隆司『李鴻章』

選挙結果には落ち込むほかないのだが、この二日間は何人かと思いを共有できたので少しは救われる。そういうわけで電車読書のほうは、先週書店で見かけて本日と来週月曜日の授業が念頭にあったため衝動買いしたものhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1111/sin_k622.html日清戦争で清側全権をつとめた李鴻章の伝記で、18世紀後半からの中国社会では自力救済的な中間団体が多数出現し、太平天国の乱を起こしたのもそれを鎮圧したのも同様の性格の中間団体だったこと、李鴻章もそうした中間団体を組織した淮軍をバックに活動し、北京の中央政府と距離を置いて北洋大臣として活動したということで、これまで曖昧な認識だった当該期の清朝の政治体制についてようやくすっきりさせることができた。これがそのまま軍閥割拠につながることは容易に想像できる。また三国干渉は李鴻章自身がロシアを引き込むことで実現したことも勉強になった。その一方でプロローグで陸奥宗光李鴻章が「日清の紛議を惹起したる張本人」ということばを肯定的に紹介していることは、陸奥外交を撤兵と避戦を目指した李鴻章をいかに戦争に引きずり込むかと評価していることとの関係がよく分からない。。どうも「『倭寇』の記憶から、日本を朝鮮半島・東南沿海の潜在的な軍事的脅威と位置づけ、幕府末維新の西洋化によって、その経に対する警戒感がいえます」という対日政策が誤りだといいたいようなのだが、他にどういう選択肢があったのだろうか。それが示されない限り反日はけしからんという論理以上にならないのではないか。欧米列強の押しつける国際法こそ正義という論調と合わせて、どうも納得できないものがある。