wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

中里成章『パル判事』

本日は午前中に京都で授業を終えてから、神戸大学に潜り込んで東大寺文書の写真帳を閲覧するという大旅行で、スルッとKANSAI3dayチケットhttp://www.surutto.com/conts/ticket/3daykansai/index.htmlをフル活用する。おかげで電車読書も進行し、一昨日から読み始めた本書は今朝茨木市駅を過ぎるころには読み終えて烏丸まで眠ることができた。主題となったパル(ベンガル語表記、ヒンドゥー語ではパール)はいわゆる東京裁判で、日本人A級戦犯全員を無罪とする意見書を書いたことで知られる人物で、その生涯を詳細にたどり一部でいわれるガンディー主義的平和主義者ではなく、右派インド・ナショナリズムに位置し、日本軍と協力したインド国民軍チャンドラ・ボースに共感を抱くという政治的立場から、大東亜共栄圏のスローガンを掲げて英米帝国主義と戦った日本ファシズムの指導者を無罪にしたことを明らかにするとともに、戦後の日本での神話化の経緯にも論究される。著者はあとがきなどによると1946年生まれでカルカッタ大学に留学した近現代ベンガル史の研究者で、日本語の著書は一般書のみで、現地史料を扱い主著は英語で発表するというスタイルの第1世代というべき実証史家らしい。本書もインド近現代史研究者が一般的に使っている実証史学の手法をとると宣言され、インタビュー(パルの子息を含む)・文書館所蔵の公文書や私文書・現地語資料・新聞雑誌記事をもとに組み立てられたものである。パルについては数年前に論壇で著名な法学者?の著書を読んだことがあるが、そんなものとはレベルが異なっている。やはり歴史学の史料実証・テキストの読み込みというのは学問的に優れたレベルであることが確信できるとともに、世間一般での評価の低さに思いを寄せざるを得ないのも事実。少しでも本書によってそれが認識されるようになることを望むばかりhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1102/sin_k573.html