wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

南川高志『新・ローマ帝国衰亡史』

本日中に目途をつけるべき採点が全く終わらず挫折。現実逃避に昨日読了の電車読書の備忘を書き留めておくhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1305/sin_k709.htmlローマ帝国衰亡の要因として、最盛期にはフロンティアの兵士にまで共有されていた「ローマ人である」という意識が、4世紀には解体する一方で、中央では「不寛容」な「排他的ローマ主義」が主流となり、国家としての存在意義が失われたことに求めたものである。あとがきで「私がどこかの国をローマ帝国に仮託したかどうかはともかく」とあるように、現代的課題を意識したもので、全体の構図は非常に興味深い。ただしファッションも含めてヘゲモニー文化が崩壊するのは、経済構造の変化にも根底的な要因があるはずで、無い物ねだりとはいいながらその点の説明を除外しているのは残念だった。また叙述には各皇帝の細かな人間関係が描かれすぎていて、固有名詞の記憶がきわめてあやふやになっている当方には読みずらくなってしまった。また皇帝が「怒った」「歓喜に迎えられた」は史料となる年代記の表現なのだろうが、現代の歴史叙述としてはやや疑問に思うところ。