wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

関西大学博物館「津田秀夫文庫を調査するー古文書の収集と保存」

本日は千里山2コマ。ふと表題の展覧会に立ち寄ったので紹介。近世の摂河泉研究で業績を遺した方なので、近世文書だろうと思っていたら、北野松梅院関係の中世文書も展示されていて驚き。展示されているのは4点と「住吉大社戸灯帳方神事勤役注進状」だが、ほどだがネット公開されているチラシと別に、『津田秀夫文庫古文書・和本目録』が本日時点では無料で配付されており、それによると東大寺関係・毛利元就書状等もあるとのことで、そのうちいくつかは写真も掲載される。その他に貝塚卜半家所蔵の山槐記写本、河内狭山池関係の絵図、嘉永七年南海大地震時の大坂の津波浸水地を描いた瓦版などもあり。

お知らせ|関西大学博物館 

昨日の某ドラマ、近年の過度な義時追討宣旨説をひっくり返す演出はよかった。頸持っていったからといって「はい、あとはよろしく」というわけではなかろうに、史料実証が全体的な歴史像理解を阻害している一例。

橋場弦『古代ギリシアの民主政』

本日は組合機関誌の印刷と委員会でお出かけ。昨日の講演会で年内の大仕事は一段落したが、試験問題・シラバスと雑務は続き、先ほどやっかいなメールも届く。そんななか衝動買いしていた電車読書の備忘。アテナイを中心に民主政について、市民の相当数が出席する民会、任期一年で再任が許されず抽選で選出される500人の評議会、同じ原理の6000人の民衆裁判所、有力者の対立を穏便に済ませるためとされる陶片追放といった制度の実態、一時の寡頭政権後の大赦による復讐ではなく「悪しきことを思い出すべからず」、徹底的な権力分散と石碑文による情報公開の仕組み、周辺のポリスへの「民主政の技術」の拡散など、700年に及ぶ負担を「分かち合う」ものとしての民主政の歴史を紹介し、ソクラテスの処刑は彼が寡頭政権側の人物と見なされただけで、後の衆愚政治とみる見解は誤りと断じ、現代に至るまでの評価のバイアスの存在が示されたもの。全体として非常に具体的で大変興味深く、従来の民主政に批判的なソクラテスプラトンらの言説からの評価を、出土碑文を中心とした実体解明で鮮やかに覆している。経済史家による仮説モデルで階層別人口まで示され、そんなことまでわかるのかという疑問もないわけではないが、それぞれ実証できる研究手法があるのだろう。

古代ギリシアの民主政 - 岩波書店

市川浩『ソ連核開発全史』

本日は千里山2コマ。傘は不要との天気予報を信じてしまったが帰りは冷たい小雨・・・。そんななか電車読書は何となく衝動買いしていた表題書。第二次大戦中の計画、原爆開発の過程(よくいわれるアメリカでのスパイ活動が決定的な役割を果たしたわけではないとのこと)、高度な自治を実現していた科学アカデミーのもと少数ながら計画から離脱した科学者もあったこと、たびたび事故を起こしていたこともあって英米の甘い放射線影響評価を批判し一方的な核実験停止も全くのプロパガンダというわけではなかったこと、むしろアメリカに先駆け原子力の平和利用を主張していたこと、大戦による膨大な戦死者と都市化で人口増加率が低くそのうえ常備軍兵士が多数あったため石油・ガスパイプライン建設がすすまず、さらに東欧などへの石油供給があったため、低コストの原子力発電が推進され、それゆえ安全性も軽視されたこと、ソ連崩壊後に自分たちの事績が後世に顕彰されて欲しいという理由から当事者によって大量の秘密文書が公開され、核開発の詳細が明らかになったこと、などソ連という摩訶不思議な国家の象徴的なトピックがいろいろ興味深かった。なお著者は大阪市立大学経営学研究科博士課程修了とのことで、一瞬接点があったような気もする。

筑摩書房 ソ連核開発全史 / 市川 浩 著

「地域歴史遺産としての遺跡ー栗山・庄下川遺跡をめぐってー」

本日レジュメを送付。当方は「中世の橘御園・生島荘と尼崎」と題して報告。変な小ネタをいくつか並べたが、果たしてどうなることやら。

令和4年度 文化・歴史領域シンポジウム『地域歴史遺産としての遺跡-栗山・庄下川遺跡をめぐって-』開催 | 園田学園女子大学 / 園田学園女子大学短期大学部 

 

神戸市立博物館「よみがえる川崎美術館ー川崎正蔵が守り伝えた美への招待ー」

本日は自治体史の大般若経調査、運転も写真技術もないが当方担当地域ということもあってお供させていただく。目当てだった応永年紀奥書のもの1巻のみなかったが、100余巻の撮影をお手伝い。現在も転読儀礼で使われており、同じく室町ぐらいの仏画とセットというのも重要。帰路は職場の招待券が残っていたので(これもあと4月)、表題の展覧会を観覧。ラジオCMのせいか入りは相当なもので、時間の関係もありじっくり見ることはできなかったが、圧巻は文安元年の「最勝曼荼羅」。説明板によると祈雨祈禱で用いられていたものとのことで、雲のようなものの上に乗り眷属が壺から水を流し、3mはあろうかという巨大なもので感服。川崎は川崎造船所の創業者でコレクションを私設美術館で展示していたが、正蔵の死後は金融恐慌などで流出したとのこと。ただ残念なのはもとの所蔵者が松江藩家老以外(名前をメモし忘れた、近世武家にそういうコレクターがいたというのは初めて知った)にほとんど記されていなかった。円山応挙のふすま絵などもともとどこにあったのか気になるところ。

よみがえる川崎美術館 ―川崎正蔵が守り伝えた美への招待―/2022年10月8日(土)~12月4日(日)/神戸市立博物館

佐々木雄一『近代日本外交史』

本日は枚方3コマ。出るときは降っていなかったが自転車を止め徒歩経路を利用、案の定帰路は大雨だったが、15分歩くとズボンの裾はびしょ濡れ、どちらが正解だったか・・・。電車読書は講義準備で順番を入れ替え表題書。本文214頁でペリー来航からポツダム宣言受諾まで描くのは、それなりの経過説明は満州事変まで。ただ第一次大戦までの帝国主義外交の規範に則り行動した時期の特徴を外務次官・有力国の大使や公使・外務大臣を務めたプロ外交官から捉えた点(著者の専門らしい)、第一次大戦による国際規範の変化(露骨な帝国主義的行動の抑制)を経た原敬内閣の段階で、満蒙に関する柔軟な政策選択への転換、国際社会に対する理解や信頼を国内に根付かせる努力を欠いたことが、満州事変以後の展開を招いたとの指摘は興味深い。とりわけ後者は近年の細切れな個別研究の進展に対して、陸軍・海軍・世論などから妥協点が限られていたことを提示し、かつての15年戦争ではないが長期的な視座を示したものとしてありがたい。図版も一つ早速使わせていただく。

近代日本外交史 -佐々木雄一 著|新書|中央公論新社

 

南塚信吾・小谷汪之・木畑洋一『歴史はなぜ必要なのか』

本日はルーティン姫路。年休消化のため朝ゆっくり出ると仕事ははかどる。ただ昼前のトラブルが解消されずいつも乗る電車が間引かれ、結局帰宅は20分遅れで、そのことは詫びのアナウンスすらなし。あと4ヶ月の間に何回遅れるのだろうか。そんななか往路で読了していた電車読書の備忘。全11章のうち木畑「ラグビーは世界史の産物です」以外は表題にマッチしているとは思えず、また明田川融「沖縄基地問題とデモクラシー」は60年安保改定反対運動を今日的観点から沖縄基地問題を固定化させたとして批判的だが、あのときにたやすく改定を受け入れたからといって状況が好転したとは思えず、復帰実現には運動も一役買ったはずで、むしろ歴史というのは矛盾を抱えながら進む事例として説明すべき。南塚「『ポスト真実』の魔術を超えてー『考える人』を取り戻す」は社会認識を<なぜこれが「三角形」に見えるのか>という問の展開に例え、「三角形」という実体は存在せず、人間によって「言語」で「構築」された「三角形」という「言説」しか存在しない、「ポストモダン」までたどり、それが歴史の産物であることを強調するが、史料学は三角形は存在しないがモノとしての▲は存在するという方向で発展してきたはずで、それ抜きに歴史学は語れないと思うのだが・・・。

歴史はなぜ必要なのか - 岩波書店