wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

橋場弦『古代ギリシアの民主政』

本日は組合機関誌の印刷と委員会でお出かけ。昨日の講演会で年内の大仕事は一段落したが、試験問題・シラバスと雑務は続き、先ほどやっかいなメールも届く。そんななか衝動買いしていた電車読書の備忘。アテナイを中心に民主政について、市民の相当数が出席する民会、任期一年で再任が許されず抽選で選出される500人の評議会、同じ原理の6000人の民衆裁判所、有力者の対立を穏便に済ませるためとされる陶片追放といった制度の実態、一時の寡頭政権後の大赦による復讐ではなく「悪しきことを思い出すべからず」、徹底的な権力分散と石碑文による情報公開の仕組み、周辺のポリスへの「民主政の技術」の拡散など、700年に及ぶ負担を「分かち合う」ものとしての民主政の歴史を紹介し、ソクラテスの処刑は彼が寡頭政権側の人物と見なされただけで、後の衆愚政治とみる見解は誤りと断じ、現代に至るまでの評価のバイアスの存在が示されたもの。全体として非常に具体的で大変興味深く、従来の民主政に批判的なソクラテスプラトンらの言説からの評価を、出土碑文を中心とした実体解明で鮮やかに覆している。経済史家による仮説モデルで階層別人口まで示され、そんなことまでわかるのかという疑問もないわけではないが、それぞれ実証できる研究手法があるのだろう。

古代ギリシアの民主政 - 岩波書店