wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

吉村武彦・川尻秋生・松木武彦編『東アジアと日本』

本日から新年度、姫路も何人かが入れ替わり当方も一年契約の辞令を更新。大学は11日からで今のところ対面予定だが、LMS的なもの(単なるGoogleドライブのところもある)はデフォルトになり、講義準備の負担は確実に増加した。そんなこともあってこのところの電車読書は講義資料更新目的、本書もそれで衝動買いしていたもの。ただ全体にアンバランスな印象、通説を説明して近年の研究といいながら明らかに論点がずれている仏教史、説明よりもやたらと史料引用の多い文字史など、期待外れの感が強い。古墳はどうするべきか、古市・百舌鳥をそれぞれトライブとして系図を記す根拠がよくわからない。

「シリーズ 地域の古代日本 東アジアと日本」 吉村 武彦[角川選書] - KADOKAWA 

明日は三回目ワクチン、二回目は寝込んだが今度は平穏無事に終わることを望む。

室町期赤松一門の構造

昨日発刊された『ひょうご歴史研究室紀要』第7号に掲載され、PDFでも公開(ただし句読点が汚く読みにくい。印刷版はちゃんとなっているが、明日以降で修正できればしたいところ)。この何年かは年一回の紀要に書くのが精一杯な状況。それも結論に到達する前に枚数規定をオーバーしてしまい中途半端なものばかり。今回も前期赤松系図考証がかろうじてできたぐらいで、それすら本日も見落としを発見してしまう。在国守護代を含めた全体像と歴史的位置づけは、はがき通信で触れた企画を実現させ、そのなかで果たしたいと考えている。

https://rekihaku.pref.hyogo.lg.jp/wp-content/uploads/2022/03/BULLETIN-OF-HISTORICAL-INSTITUTE-OF-HYOGO-PREFECTURE_07_03article_04oomura.pdf

ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリディ

自治体史から現実逃避して本日近所の映画館で観覧。麻薬に溺れ若くして亡くなった伝説のジャズ・シンガーについて、「奇妙な果実」(KKKによるリンチ殺人で吊された黒人の遺体のことを指す)を歌うことを止めさせようとした連邦政府による迫害があったという著作に基づいて描いたもの。映画では一瞬マッカーシーが出てきて共産主義・反アメリカ的と非難し、麻薬を口実に逮捕するという筋立てになっている。その時のFBIの潜入捜査官でその後も物語にからむ黒人男性の証言も残されているらしい。映画では公民権問題が強調されていたが(彼女自身その先駆として評価されているという)、「奇妙な果実」はユダヤ系のアメリ共産党員の手によるものらしく、ありえる話しなのだろう。なお映画は彼女のそれはなくとも破天荒な人生が中心で、偏見ながらとっかえひっかえ登場する黒人男性の区別がなかなかつかなかった。当時の映像が挿入され歌もレコードかと思ったが、主演女優(本来は歌手)の生歌らしい。「南部の木々は奇妙な果実をつける」から始まる歌もふくめ字幕で確認できわかりやすかった。

映画『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』公式サイト

『日本歴史』887

編集委員会からの依頼で、「はがき通信」に拙文が掲載(720号以来2度目)。姫路の宣伝だが、新知事次第でどうなることやら。なお同誌には、研究余録に大塚紀弘「鎌倉大仏の鍍金と鎌倉幕府」、研究余録に高橋修「鎌倉御家人笠間時朝の造仏」、文化財レポートに松本和彦「讃岐国府跡の調査」、書評に中込律子「梅村喬著『尾張国郡司百姓等解文の時代』」・山田貴司「小久保嘉紀著『室町・戦国期儀礼秩序の研究』」・佐藤雄基「坂田聡編『古文書の伝来と歴史の創造』」などが掲載され勉強になる。なお文化財レポートによると11世紀中葉から13世紀に一辺40m程度の屋敷地的なまとまりが12~13ブロック程度想定でき(調査区は3ブロック)、井戸の完備・輸入磁器の出土量・灯明具などの出土から留守所と想定されている。そこまで集住しているのかは疑問だが、ちゃんと検討する企画をもってほしいところ。

お知らせ(月刊雑誌『日本歴史』のご案内) - 株式会社 吉川弘文館 安政4年(1857)創業、歴史学中心の人文書出版社

 

落合淳思『漢字の音』

本日は自治体史の編集会議。史料編の入稿まであと一月だが、課題は山積み。そんななかで電車読書の備忘は、「古代中国の発音から現代日本の音読みまでを通して形声文字とその発音を解説するものであり、一般書としてはおそらく本邦初(そして世界初)の試み」というあおりに惹かれ、衝動買いしていたもの。甲骨文字から楷書までの字形の変化、中国上古音(春秋時代から漢代)・中古音(南北朝から隋唐)・呉音・漢音という音の変化、どのような規則性に基づいて変化したかを示したもの。音読できない電車読書向ではなかったが、図版は豊富で有益、文末には小学校での教育漢字の成り立ちが挙げられているのも便利。来年度も担当することになった「外来文化と日本の歴史」にも役立つもの。

https://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=4497222015&bookType=jp 

春休みも残りわずか、自治体史の仕上げと先送りしていたJABEE資料の作成で終わりそう。もっともまん防明けで再開されると思っていた東大史料は閉まったままという仕打ち。四月に休みを取って一日だけでも行くしかないか。

篠田謙一『人類の起源』

本日は自治体史がらみの調べ物で荒本へ。切羽詰まってからようやく文献に気づくという情けなさだが、電車読書の備忘だけは残しておく。著者の2007年刊著書はここで紹介しhttps://blog.hatena.ne.jp/wsfpq577/wsfpq577.hatenablog.com/edit?entry=26006613387654422、いくつかの講義でも活用させていただいていた。ただその際の現代人のミトコンドリアDNAを基本とした研究は、2010年以降に古人骨から核ゲノムを採取して分析することが可能になったことで、大きく変化したようだ。①ホモ・サピエンスの誕生が20万年ほど前から45万年前に遡ること。②ネアンデルタール人・デニソワ人などと交雑を繰り返していたこと。③アフリカ内部での移動がその後の世界的展開に大きな意味を持っていたこと。④狩猟採集民の活動地に牧畜農耕民が移住することで大規模なゲノムの変化を伴うものだったこと。⑤日本列島もその例外ではなく本土現代人の縄文由来の遺伝的要素は10%程度で渡来した人々飲み込んで成立したといえること。などでとりわけ④・⑤はかなりシビアな問題を含んでおり、かつての弥生大量渡来説との差異も気になるところだが、講義資料も修正が必要に。なお「縄文人旧石器時代の日本列島集団の直系の子孫」で南方から北上したとしながら、九州と琉球列島での縄文人はDNA系統が共通なので、九州から流入したと評価するのは疑問。またゲノムデータ解析は十指に満たない施設で行われるビッグラボの研究になっているとのことで、考古学的研究との乖離、先住民社会への無理解(オーストラリア・パプアニューギニアではデータが得られず、著者の盗掘によって得られたアイヌ人骨分析も批判を受けていたはず)などの問題も抱えているようだ。人類の起源|新書|中央公論新社

荒本の風景が変わっているなと思ったら、イオン(もとカルフール)が解体され消滅していた。戦争で破壊されなくても各地におとずれる状況か。