wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

北野天満宮宝物殿

京の夏の旅特別公開を利用して観覧北野天満宮 宝物殿 特別公開|【京都市公式】京都観光Navi。阪急は10時台の特急が若い男女であらかた埋まっていたが、こちらは30名の事前予約の必要がないぐらいじっくり観覧可能。あるいは送り火目当てか・・・。もともと髭切・膝丸同時公開目当てだったのだが、気づいた時点で後者(大覚寺)は終了しており、前者のみに。源満仲から頼光、渡辺綱が一条戻橋で鬼を切ったため鬼丸とも呼ばれるという由緒が語られるが、反りが大きく銘「安綱」も後刻で古備前ともいわれる。少し調べた感覚では刀剣説話は鎌倉後期ぐらいから急速に成長するようで、新田義貞斯波高経→最上氏を経由して北野社に渡ったらしい。それ以外にも刀剣がメインだが、実はそれ以外に掘り出し物が。加藤清正が奉納した「日本地図鏡」、係の方は行基図と言っていたが、瀬戸内海などアレンジが加えられ、「天草」「児島」「小豆」などの文字もある。とりわけ気になったのが「淡路」の東に文字注記のない島があり、あるいは友ヶ島ヵ。また2002年に本殿内陣で発見された十三神像も重要。全く知らなかったのだが、平安中期のもので街衢祭で使用されていた可能性があるとのこと(リンクは企画者による記事 THE KYOTO)。採点終了後、呆けたままになっているが、久しぶりの眼福。

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本殿中庭に立つ渡辺綱が奉納したとされる灯籠



長谷川公一『環境社会学入門』

本日はルーティン姫路。当地は大雨ではなかったが一日中降り続く。そんななか電車読書はなんとなくタイトルで衝動買いしていたもの。著者はOD一年で東大社会学研究室助手・1年半で東北大教養学部・6年で文学部社会学研究室という経歴で昨年2月のオンライン最終講義をもとに原稿化したとのこと。そのため著者の山形の辺境で生まれて以来の自伝とあわせて、新幹線公害・資源動員論を導入した社会運動論・アメリカにおける原発閉鎖の実地調査・六ヶ所村・著者のような公害研究から出発した研究者と嘉田由紀子(今は親権にはまって危ない人のようだが)のような生態系から出発した研究者が1990年に発足した環境社会学研究会・持続可能な社会の追究、という著者の学問的歩を通して概観したもので、学史がよくわかり有益。直接的な政治とは距離を置いているように見えるが、前々エントリーで紹介した仙台石炭火力発電所差し止め訴訟の原稿団長となるなど実践の人でもあり、学問と運動の両輪を強く意識されているよう。

筑摩書房 環境社会学入門 ─持続可能な未来をつくる / 長谷川 公一 著

明日香壽川『グリーン・ニューディール』

本日は枚方定期試験、雨と学研都市線遅れの情報のため別ルートで出勤。案の定開始五分前で1/4ほどが空席で、それから10分ほどゾロゾロと入室し何とか終了。帰路は戻っていたのだが、乗り合わせた電車が異常音を感じたとのことで30分間停車(置き石とのこと)。おかげで読みさしの表題書を読了。お名前を見かけたことがあり衝動買いしていたもの。COP2からオブザーバー参加し、仙台石炭火力発電所差し止め訴訟原告団事務局長(結果は敗訴)をつとめるなど実践活動にも従事してきた著者(肩書きは東北大学環境科学研究科教授)が、気候変動問題に関する国際会議における議論をたどったうえで、2018年以降にアメリカで高まった第二波グリーン・ニューディールを紹介するとともに、EU・中国・韓国などでの取り組みにも言及し、著者も関わった日本版を提示。そこにはらむ問題点とあわせて、斎藤幸平氏の議論の誤りと切迫性のなさを指摘。①気候変動の被害が深刻になるのは将来、②対策をするとコストがかかる、③他の国がやっていないから不公平、という風潮の克服を説いたもの。国際的な現状が俯瞰されており、83頁「GDP当たり一次エネルギー消費量の変化割合」の1980年代にトップを走っていた日本のそれ以後の停滞ぶりもクリア(他の指標もそうだがバブル崩壊後に完全に後ろ向きになった政治経済+学問)。なお著者は博士課程は微生物利用学研究室で、スイスに留学して動物免疫反応の研究をしていたところから、エネルギー・温暖化問題の科学・技術や政治経済的な側面に転換したとのことで、ウィキペディアによると「日本生まれの在日華僑」とある。

グリーン・ニューディール - 岩波書店

兵庫県立考古博物館「淡路島発掘」

本日は同所講堂で開催された古代史シンポの裏方。司会者がかみくだきながら討論を進めていったため、門外漢にも理解できるものになったように思える。シンポ自体は表題の夏季企画展開催にあわせて企画されたもので、準備の合間に当方も観覧。目玉となるだろう銅鐸は里帰り中だが、旧石器から奈良までの遺物が概観でき、各地からの搬入品が並べられ撮影もOK。シンポでも議論になったが、前方後円墳が一基もない唯一の令制国にもかかわらず、国生み神話の原型が成立し、鉄器生産・製塩など先進的な役割を果たしたという非常に興味深い地域。

淡路島発掘 | 兵庫県立 考古博物館

太田出『中国農漁村の歴史を歩く』

今週の試験は採点終了。一つは最初2回・最後5回が対面で残りはリモート、もう一つは全リモートだったが、できはイマイチ。やはりリモートと対面論述試験はそぐわないのかもしれない(前者も問題選択はほとんど対面)。やることは山積みなのだが、気力が萎えておりとりあえずタイトルにつられて購入していた電車読書の読みさしを読了。10章立てだが、テーマは四つ。①中国地域社会論と戦前以来のフィールドワークの振り返りで、研究状況がよくわかる。②福建省農村における実践例で、一見一つの村に見えるも微妙に距離を置いた集落から構成されており(多層的共同体とでもいえるか)、その成り立ちを後から移住してきた有力氏族ともとの氏族との関連から読み解いたもの。興味深いのだが祭祀のみで生業について触れられていないのが不満。③太湖流域の水上民について、自由な漁業が許されている地帯と出蕩銭を支払わなければならない高級魚の漁場があり、その推移を清代・民国期・共産党による集団化政策とたどったもの。これも興味深いのだが、漁民が採った魚の販売についての区別も聞き取りが必要だったのでは。④日本住血吸虫病(中国・フィリピンも同じ)について文献から地誌・共産党による克服の歴史(とりわけ毛沢東の功績とされている)・新型コロナ対策でその経験が呼び起こされていることをたどり、実際に現地で活動していた人々のインタビューを紹介。江蘇省血吸虫病防治研究所が主導的役割を果たしている「一路一帯」構想におけるアフリカでの対策が進出する中国人のためであると批判。ジェトロを引用するなど日本の対中政策寄りでそもそも本書のテーマとそぐわないように見えた。

京都大学学術出版会:中国農漁村の歴史を歩く

兵庫県立歴史博物館「唱歌!西洋音楽がやって来た」

本日はルーティン姫路。ただ三日外勤が続いたため、二週間ぶりで机の前は回覧書類だらけ。表題の特別企画展も17日から始まっていたが、本日昼休憩でようやく観覧。明治における西欧音楽の導入を、幕末ドラムマーチ(軍楽は当初の鼓笛隊からラッパに変わるとのこと)・唱歌の誕生・子どもの言葉の唱歌・軍歌と鉄道唱歌・音楽を楽しむ、の五つのテーマで構成したもの。伝家の宝刀入江コレクションの双六絵画は運動会種目のカルタなど当時の様相を伝え、八甲田山の遭難・忠勇唱歌(四十七士・楠公父子・豊太閤・牛若丸・菅公)・教育勅語・帝国憲法など何でも唱歌にするという無節操さも興味深く、鉄道唱歌が地理・歴史教育と不可分だったように、初等教育に果たした唱歌の役割の重要性がよくわかる。いくつかの唱歌スマホアプリで聞くことができ、最後にレコード放送もあり。図録はありませんが無料ガイドブックを配布。なお中世史的には山国神社遷幸祭山国隊行進ビデオ(初期の鼓笛隊音楽を伝えているらしい)がツボ。コロナ禍ですが興味のある方はどうぞ。

唱歌!西洋音楽がやって来た―明治の音楽と社会― | 展示会情報 | 兵庫県立歴史博物館:兵庫県教育委員会