wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

井上勝生『開国と幕末変革』

三連休のはずだったのだが、火曜日から始めた概説の授業準備が終わったのが今日の午後で、ほとんど時間をつぶしてしまった。近世後期で一から話を作ろうとしたのが失敗で、近年の概説類をかき集めてようやく「近世社会の達成と開国」というレジュメA4二枚分に仕立て上げた。何冊か読んだがそのなかでも大変おもしろかったのが本書。著者の維新論はすでに岩波新書の近代史シリーズで読んでおり、これまで軽視されてきた幕府の外交能力を高く評価し、空論としての攘夷と対比させるという、俗説的な見方を覆す視点が斬新なものだった。本書の後半はそれをもう少し詳しく述べたものだが、前半部分は近世史に踏み込み、経済社会としての成熟、国訴・一揆組織力から、近世社会総体としての達成を手際よく描き出したものになっている。わりと親しい方の論文を引用して、上方村落が事実上の「領地の経営権」を有しているとされているのだが、それすらちゃんと読んでおらず不勉強が実感される。もともと大学の授業で近世はほとんど取り上げることはなく、織豊から明治維新に飛んでいたため、大阪学の準備のためにまとまって勉強してから全く遠ざかっていた。概説も集英社版・岩波日本通史までは全巻購入していたのだが、スペースの関係もあってそれ以後は必要分のみの購入するのみで(最近はそれすらもれている)、全く知識が時代遅れになっている。近世史は個別論文が細かすぎて全くついていけないため毛嫌いしているのだが、やはり少しは勉強する必要があるのだろう。もっとも著者も維新史の研究者だから総体を見通すことができるのかもしれない。別の通史には意味不明のものもあったため、優秀な書き手に出会うことを期待するほかない。なおリンクは学術文庫版https://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2919184&x=B。そんなこんなで時間がない。某校正は全く手をつけていないのに、編者からもうだしたとのメールが来てしまう。もう一人の仕事が遅れていることを期待しよう。