wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

藪田貫『武士の町 大坂』

天気予報通りとはいえ昨晩からはいきなり寒くなり、朝気づいたら悪い予感が当たってしまった。京都も寒く久しぶりに総合資料館に行って写真帳めくりをしていたが、何度も鼻をかみに行く始末。今週の金曜・来週の火曜・水曜が休みのため少し気がゆるんでおり、風邪を引かないようにしないと。それはさておき本書も先週の金曜日に書店で購入したもので、昨日の川北氏の著書と同じく進行中の授業に関わるため、積ん読の順序を変えて月曜から読み始めて今日の帰り道途中で読了。一般に町人の町と評価される大坂を武士の町という視点から読み直そうとしたもの。大坂城詰めの江戸から赴任した武士たちが天神祭などの祭礼を見物できないよう規制されていたというのは、江戸など他ではどうだったか気になるところだが、中世京都では常に紛争の火種となる事態があらかじめ避けられていたという点は大変興味深い。また江戸から赴任した武士たちがその対比から大坂を町人の町と発信するようになったという指摘も面白く、全国各地の幕領を転々とする旗本層の認識は興味が引かれるところである。ただし「あとがき」で最初の原稿が「寝転がってでも読める余裕がいる」ということで全面的に書き直したとするように、やはり電車読書では読みにくい部分があった。近世史料の用語がそのまま使われているのもこちらは対応できたが一般読者には難しいのではないか。また内容を盛り込みすぎており個別のエピソードが展開不足になっているような気もした。また武士と町人を峻別して武士からみるという視点よりも、大坂地付の武士を焦点にして、江戸からの赴任してきた武士との関係や町人との関係を組み込んだ方が全体像を示せるのではないか。本書はまだましとはいえ、近世大坂については個別論文が量産されながら、なかなか全体像を示したものが少なく、部外者としてはそちらを期待したいところ。http://www.chuko.co.jp/shinsho/2010/10/102079.html