wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

吉澤誠一郎『清朝と近代世界』

岩波新書で、シリーズ日本近現代史に続く企画として、シリーズ中国近現代史が立てられその第1冊目。日本近現代史は最後にケチがついたとはいえ、最初が出色の出来と言うこともありそこそこのレベルになっていたが、本書もそういう意味で今度のシリーズの試金石ともなる(とりわけ全6巻のうち、3~5巻の著者は不勉強で名前すら知らない)。さて本書の主張はアヘン戦争により衰退の一途を辿るという歴史像を、辛亥革命を正当化するものとして退け、1860年代以後は諸反乱を鎮圧し、1870年代・80年代は列強諸国とはげしくわたりあい、周辺諸国への影響力を強めようとすらしたと描かれる。たしかに現代中国の基点としてその時期を見た時には、ロシア国境のムスリム地域から江南の華僑までを含む、余りにもの多様性と混沌さとして大変興味深いものがある。先日の『ユーラシア胎動』でみた中ロ国境確定がどれだけの意義を持つのかは、本書を前提とするとよくわかる話。ただしグローバル・ストーリーから見ると70年代・80年代は大英帝国の覇権の衰退による一種の空白期ともいえ、清朝の動向のみを高く評価できるかは疑問もあるだろう。また著書は都市史の専門家でもあり、その点での叙述ももう少し欲しかったように思われる。とはいえ東アジア史ではなくユーラシア史として清朝をみる見方はこれからますます重要になっていくのだろうhttp://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-431249-9。本日の訪問者はこれまでとは群を抜いている。試験期間になって学生がたまたま見たのか、コメントによって同業者に知られるようになったのか。