wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

高岡裕之『総力戦体制と「福祉国家」』

本日の授業はPCの設置に時間がかかってしまったが、何とかTA(?)の力を借りて乗り切ることができた。図書館では新着図書に見たかったものが並んでおり早速借りて、午後は久しぶりに写真帳めくり。電車移動が長いため読書時間も多くなる。ということで本書は岩波書店の「戦争の体験を問う」シリーズの一冊http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/2/0283780.html。古典的な日本近代史研究では「天皇ファシズム」としてその前近代性が強調されていたのに対して、90年代以後の研究はむしろ戦前・戦後の断絶より、戦時体制こそがその後の体制の源流になったと捉えるようになっている(規制緩和論のなかで唱えられた1940年体制論など)。それに対して「社会国家」化(国家が人々の社会生活に積極的に関与する体制、福祉国家もその一つ)には、「体力」の向上という衛生主義的なもの=陸軍が主導した強兵づくり、生産力主義的なもの=戦時工業化の推進による社会の「近代化」、民族ー人口主義的なもの=工業化・都市化の抑制と農業人口の保全を主張する民族主義的・小農主義的な「戦時社会政策」という異なる方向性をもつ政策集団がせめぎあいながら展開したもので、最終的には日本ファシズム=総力戦体制は戦時「社会国家」の実現を目指すものであったが、構想と現実のギャップは大きく、戦後改革で解体されたものも少なくなく連続性だけでは捉えられないとする。歴史学者らしく実態面を追求したもので、いろいろな試みはあるがどれも中途半端というのが、当時の体制の現実なのだろう(その後も?)。ただ理念先行の主に日本近現代史研究者以外から提起されている近年の研究と、どれだけ切り結びができるだろうか。あとがきを読む限りではそうそうたる顔ぶれとの議論の結果のようだが、今後の展開が注目される。なお著者は院生時代に大変お世話になった先輩の一人だが(先週も研究会で出会った)、わずか一年遅れで刊行されたのは編集者がすごいのだろう(笑)。