wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

服部英雄著『峠の歴史学』

近年は日本中世史研究者による新書・概説書類をほとんど買わなくなってしまった。一部は頂けるようになったというのと、買って読んでも知識を得るというより失望するものが多くなったのが大きな理由だ。そういう事情で本書も出版時はスルーしており、某書に啓発されて購入して読了したもの。著者は文化庁在職時に荘園調査の推進と遺跡指定に多大な功績があったことは理解していたが、それ以前に「歴史の道」整備事業にも深く関わっていたようで、大部分はその時の踏査記録をもとにまとめたものである。興味深かったのは人だけでなく、牛・馬が通行可能であったかどうかを、地形と合わせて考察している点で学ぶところが大きい。また多数紹介されている聞書も現在では得られないものも多く貴重な資料である(本日、運転免許更新に行って初めて気づいたが、生年月日のための元号が大正・昭和・平成になっており、明治はすでに消えてしまっている)。とりわけ被差別民に関わる「差別する側」の生々しい聞き取りは、その時点だから得られるものでいろいろ考えさせられるものがある。また「鎌倉街道」に関する調査も興味深いが、鎌倉時代に成立したのか、後代の仮託なのかについてはもう少し検討の余地があるように感じた。なお掲載されている地図はおおまかなもので、25000の地形図があればより臨場感があるのにという点は残念なところだ。http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=8359
本日は諸事情で実家に立ち寄り、ひさしぶりにNHKのニュースを見た。実子に水などを入れた点滴を投与したとして起訴された母親への判決が下されたというもので、大阪局での裁判員の「専門用語が最初はわからなかったが(検察の説明で)わかるようになった」という証言が、全国ネットではカッコ内が飛ばして報道されていた。なかなか興味深い資料操作に立ち会うことができた。はかなくも検察優位の裁判員裁判の現状を露呈してしまったため、削除されたのだろう。