wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

尾本恵市『ヒトと文明ー狩猟採集民から現代を見る』

昨日はTVで某戦国史研究者のご尊顔を仰いでから就寝。午後は歩き夕食時には日本酒も入っていたので、すぐ熟睡できるつもりが全くで、結局2時間程度の睡眠で出かける羽目に。電車はさすがに空いていて窓際を確保も、うつらうつらで姫路に到着、ただ少しは目が冴えていた午前中にある程度論文の目処を付け、午後は地図作り。どの分野の研究者にも振り向いてもらえなさそうな(笑)、独特のものとなりそう。そんなわけで本日の読書時間は微々たるものだが、姫路で5分で手に取った数冊から一冊だけ選ぼうと衝動買いした表題書をようやく読了http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480069337/。1933年生まれの著者がその履歴をからませながら、日本と世界の人類学史をたどり、新人の拡散と文明について概観。後半部分は著者自身が携わったフィリピンのファースト・ピープルである狩猟採集民ママヌワ民族の特質と、住金を関わるニッケル鉱山開発による故郷の喪失、アイヌ新法を支援した経験によるその苦難に満ちた歩み、西欧に席巻されたアメリカ先住民の運命など、文明の負の側面を浮き彫りにする。とりわけヒトの「自己家畜化」・文明の「台風モデル」などは興味深い議論。その上で資源の限界を認識し、狩猟採集民の相互扶助に学ぶことが主張される。欧米帝国主義批判のなかで日本については微妙に避けられているところや、人類館事件の坪井正五郎の評価がやや甘いのは気にかかるが(学者の「純粋」な研究目的にこそ陥穽があることは、その前に触れられている人骨研究で明らかなはず)、目配りがよくきいたもので教養課程でもすすめられるもの。