wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

佐藤仁『争わない社会』

本日は出張旅費をいただいて隣県の某港町の調査。湿気が多く徒歩で坂道を上下して汗だくになる。昼食に店に入り水をがぶ飲みしたのもよくなかった。上のシャツだけは着替えたが、帰って風呂場においておいても全く乾かず。興味深かったが、電車・バスを乗り継いで片道3時間以上かかったため、表題書を読了。東南アジアの山間部に国家を形成しない社会があったとして話題になったゾミアの監訳者(当方は又聞きだけだが)ということもあって、衝動買いしていたもの。近代社会の個の自立が、結果的には資本への従属に過ぎないとして、複数の選択肢を有する依存関係を構築すべきことを、歴史にさかのぼりながら説いたもの。著者はもともとタイ山岳部の村人の森林利用に関するフィールドワークから研究を始め、途上国への開発協力を最近のテーマとしている。本書はそれをベースにしながら(東南アジアにおけるアメリカ民間団体のかつての開発援助はCIAの反共政策に基づくものらしい)、経済学・開発援助・医療実践(開腹手術は臨機応変が求められるため過度の分業化を避けるという)・省庁人事など多様な研究交流に依存して(日本の中間団体の近代化は松沢祐作説を踏まえてほしかったが、それはない)、いろいろ勉強にはなった。最近のトレンドしてわかるのだが、現在は東大東洋文化研究所所属で、多様な交流を重ねる優秀な著者のような「依存関係」は誰でもがつくれるわけではなく、かといって小川さやか氏が紹介する世界でよいのかといわれると、楽しそうではあるのだがそれもとは思うところ(これは自宅で読んだものだが、編者の一人の沖縄共同体論が伝統的なものと破片家族のものを同一視していてメチャクチャすぎる)。

NHKブックス No.1279 争わない社会 「開かれた依存関係」をつくる | NHK出版

所有とは何か -岸政彦/梶谷懐 編著|全集・その他|中央公論新社