wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

石濱裕美子『物語チベットの歴史』

本日は水曜はしご講義の最終日。先週の南京講義に戦争だから当たり前と書いてきたシニア受講生は欠席、慰安婦はすすんでなったとお父さんが言っていたというのも含め、中高年ネトウヨ問題は深刻。本日も3冊積み上げたため絶望状態になっている積ん読をようやく消化。7世紀から現代に至るチベットの歴史を、その核となる仏教諸派の展開について、影響力を持つモンゴル・ブリヤート地域の状況とあわせて叙述。破戒僧の評価・転生の論理(傍系親族への世襲より、優秀な後継者を選定可能、幼少の転生者の保護は弟子系の転生者が集団で行う)、14世紀のダライ・ラマ政権の成立、清朝との関係は高僧とそれを後援する施主と位置づけられるも、イギリス・ロシアの進出と帝国主義的思惑の中で清朝末期に領域に包摂しようとする動きが見られ、中華民国中華人民共和国に継承されること。1950年の人民解放軍進駐後の、ダライ・ラマ14世の対応(継承のタイミングで仏教教育を受けてから亡命することなったため、独自の哲学が表明が可能になった、それが15世に継承できれば「チベット」は存続と著者は評価)、一時期の融和路線を経て天安門以降の内国化まで、いろいろあやふやだった知識が整理され有益。欲を言えば、前近代について史料状況の概要についての説明があればありがたかったところ。

物語 チベットの歴史 -石濱裕美子 著|新書|中央公論新社