wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

「風立ちぬ」

本日でようやく採点一巡目が終了。明日から点数順に並べたものをもう一度再チェックしなければならず、まだ作業半ばというところ。非常勤講師の試験は通常は出講時間に行われるのだが、金曜の出講先は試験機関を少し長めにとり、3限を他曜日に分散させているため、3/4連続授業にかかわらず前者は木曜2限に廻されてしまった。ただし不幸中の幸いだったのは木曜日=1日が映画1000円に当たったことで、帰路に鑑賞したのが表題のものhttp://kazetachinu.jp/。200弱の座席がほぼ満杯で、昼間にもかかわらず子供は一切見かけず、20代から60代の男女で占められていた。あらすじは紹介しないが、以下に感想を書き留めておく(一部ネタばれ)。1.関東大震災取り付け騒ぎ・貧しい社会と子どもたち・新聞記事などである程度の社会情勢は描かれていた。特に試験飛行場まで牛で引いて運ぶ光景はそれなりのインパクトを与えたことだろう。また燃料タンクを防護しなかったという戦闘機の根本的弱点も描かれていた。2.ただし絵のトーンが全体に明るすぎる。都市部は煤煙に覆われていたはずで、農村部とはかなり異なっていたはず(以前から監督は石炭の煙をある種美化している側面がある)。飢えた子どもたち・結核のヒロインも血色がよく、大きすぎでまるまる太った牛も含めて全体に栄養が行き届きすぎているようにみえる。せっかく主人公とイタリア人設計家との交流を描いた夢の部分があるのだから、その場面との色彩の変化で暗さを示す部分があったほうがよかったのではないか。3.言葉で社会の矛盾を指摘するのはよいのだが、それが逆に主人公の立ち位置を曖昧にしているように思えた。東大を出て三菱で軍の予算を使って航空開発できるという超エリートで、開発失敗後に訪れた軽井沢で資産家令嬢と恋に落ちるという、当時の一般庶民の生活状況から考えられない立場にいるにも関わらず、乗る汽車の席、吐血した東京の恋人の許から名古屋に戻る際に車がないなど、らしからぬ光景がままみられる。浮いてしまうのを恐れたのかもしれないが、むしろ自由主義エリートとして徹底させるべきではなかったか。4.全体に反戦と飛行機賛美という矛盾をさらけ出すことに躊躇した印象を感じる。「誰も気づかない」改憲が目前に迫っているなか、今一歩の切り込みがほしかったところ