wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

河原理子『戦争と検閲ー石川達三を読み直す』

本日から14週目。TAのミスと時計の遅れで最初は少しバタついたが何とか終えることができた。電車読書のほうは明日の講義で取り上げる南京の事もあって衝動買いしていたものを読了https://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1506/sin_k836.html。第一章「筆禍に問われて」で「生きている兵隊」事件の経過が述べられ、第二章「××さ行きてくねえ」で明治以来の検閲の歴史と達三の芥川賞受賞作「蒼茫」における検閲について(××は兵隊)、第三章「戦争末期の報国」で筆禍事件から敗戦までの達三の活動(45年には再び家宅捜索・7月末には連載打ち切り決定)、第四章「敗戦と自由」ではGHQによる達三の原爆関係の叙述への検閲(GHQのそれは××など検閲が可視化されることも認められなかった)が述べられる。新聞記者(1983年に東大を卒業して朝日新聞入社)らしく達三の遺族へも取材を繰り返し、丹念に事実が掘り起こされ、達三の作品の背景が読み解かれている。また事件の取り調べに当たった思想検事が松川事件の時の最高検察庁の公安部長を経て1967年に検事総長にまで登りつめたことだけでなく、取り調べに当たった警部が99歳で出した歌集の存在を突き止め、戦後は公職追放を受けて「開墾」事業(北海道?)に従事したことが明らかにされている。また南京がらみでは伏字とされた「生肉の徴発」(強姦の暗喩)、差し押さえを洩れた本が各地にあり、中国・アメリカにわたって翻訳出版されたこと、未発表の「南京通信」の存在などいろいろ興味深く、明日にもさっそく使えそうだ。なお「あとがき」によると著者は高校時代に黒羽清隆氏の授業を受けたとのこと。日本史4時間のうち3時間は山川出版の教科書を用い、1時間は近現代史特論に当てていたらしく、その一場面が紹介されていた。本日の学生の書いたものを読む限り、当方の講義が記憶されることはまずなさそうで、反省すること頻り。