wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

早島大祐『足軽の誕生』

来週の授業準備がまだ終わっていないのだが、昨日読了した電車読書の備忘。最近は問題関心が降っていることもあって、授業準備もかねて積ん読の順序を変えて読了したものhttp://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14292。いろいろ教えられることもあり、全くの無駄ではなかったが、全体的にはこの年でこんなものを書くのはどうかという感が強い。すでに関西で立場を確立している著者に対して、中年ODがなおさらというところなのだが、いくつか列挙しておく。①「鎌倉幕府後醍醐天皇率いる軍勢に打倒され」(19頁)をはじめ、一般向けとはいえ荒っぽすぎる文章が目立つ。②とりわけ逐電した人物について、氷室の穴に隠れるなどという表現を用いるのは、厳しい追跡の手から逃れるという誤ったイメージを与えるもの。③京の労働市場についても、厨子王丸のような「障害者」の事例は不適切で、安定した所職を得るには「有縁」が必要だろうが、不安定雇用としての「買夫」は好不況の波はあるとはいえ開かれたものだったろう。④政所執事として幕府による都市課税を広げる伊勢氏を「都市派」・領国経営を進める山名氏を「地方派」とするが、それだけなら利害関係は全くバッティングせず両者は共存可能なはず。⑤そもそも武家被官化とその牢人化を足軽の誕生の前提とするが、本書で取り上げられているのは足軽大将クラスの存在で、これまで足軽として論じられてきた階層とは異なり、タイトルに偽りがあるといわざるを得ない。著者には学界を担っていくという立場を理解して、じっくりと骨太な研究を進めてもらいたいところ。