wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

原田信男『日本の食はどう変わってきたか』

本日は京都で試験。昨年担当した一年生での中世史概説受講者がそこそこいたため差別化を付ける必要があり、受講者も十数名しかいなかったことから、レジュメはほぼ史料と図版のみ、返り点をつけたのみの漢文史料を数十字ずつ当てて訓読させるという、専門的な講義スタイルを導入してみた。何人かの落伍者は出たが、レジュメにびっしり書き込みを入れてくれる熱心な受講者がそこそこあり、こちらとしては気持ちよく進めることができた。本日の「『小右記』寛仁2年閏4月22・23日条にみえる牛飼童の活動」などといった、マニアックな試験問題もそれなりに解答されており一安心。通りすがりの非常勤にはどうしようもないことだが、大学の専門教育はやはり「偏差値」より「刷り込み」だとつくづく思う(たまたまだが、東京大学がらみの不祥事が立て続けに出ていた)。タイトな授業準備が終わったこともあり、乏しい財政から購入していた積ん読書の一冊目が表題書http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=321210000047。そうはいってももともとは講義がらみで購入したもので、「神々の食事」「精進料理の成立と懐石料理」「ソバとウドンの展開」「ブドウとブドウ酒の登場」「文明開化と肉食・洋食」「戦間期の食文化」「魚肉ソーセージの出現」の7章からなる通史スタイル。中世までを対象とした最初の2章は目新しさはなかったが、3章以後はいろいろ勉強になった。特に近世粉食文化の普及は石臼と水車の普及とセットになっていることは、民俗事例としての焼畑集落の普及は近世ではないかという推測を補強するものになるとともに、臼の問題は考古学との突き合わせがもう一度必要になるだろう。またブドウ酒を始めとして近世後期に流通していた酒の種類と値段は(泡盛・焼酎が高額)、その後にどういう変遷をたどるのか気になるところ。文明開化以後の牛肉食についても朝鮮牛がかなり流入していたことが指摘されており、身分制解体後の国内体制だけでなく、帝国全体の構造の中で米・肥料(以前聞いた報告によると、満洲大豆粕の流通が里山施肥解体に決定的に重要らしい)・砂糖の流通も含めた近代食生活史が求められている。最後の章は日本人の味覚の魚食から肉食への転換期に果たした魚肉食の重要性が指摘されているが、これこそが肉よりも相対的に「安価」だった世界の鯨・マグロを壊滅的打撃に追い込んだ要因であることは明らかで、そこまでの視野が求められるだろう。それにしても外は暑く、中は寒い。本日も試験終了後に3時間ほど図書館で史料読みをしていたが、ひたすら鼻をすすっていた。クーラーにはめっぽう弱く、かといって暑さにも耐えられないこの体質は何とかならないものか。