wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

加藤圭木『紙に描いた「日の丸」』

昨晩バタバタしていたので電車読書の備忘。副題に足下から見る朝鮮支配、とあるように植民地時代の朝鮮民衆の視点から実態を掘り起こしたもの。表題は昭和天皇即位礼における通達における対応、それに業を煮やした警察がわざわざ購入を「斡旋」する一方で、わざと強く打ち振って破ったという抵抗もあったらしい。当方の目当ては日本窒素・セメント工場における公害で、同時代の内地レベルの対策もせずに垂れ流され、七万人を移転させたダム建設など、北朝鮮地域における工場開発の強権性が日本人技術者の言葉からも明らかにされている。その前提には強権的な土地収用があったのだが、笑えるのが満鉄・朝鮮総督府ともに消極的だった港湾都市の開発を日本軍が押しつけると、決定までに日本人による土地騰貴が過熱して、逆に買収ができなくなって30万都市の予定が5万人にもならず穴だらけになったという結末。組織間の調整が進まず無駄に強権性だけが発揮される典型例。なお本書は前提となる文章をもとに一書に編集したらしいが、論文集と新書などとの中間的でやや中途半端なところもあった。一例を挙げると民衆の抵抗の社会主義的傾向が指摘されるが、具体像がみえづらく戦後へのつながりも人民委員会について一言触れられるだけなのは残念。

紙に描いた「日の丸」 足下から見る朝鮮支配 - 岩波書店