wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

菅原和孝『ことばと身体』

先年、扇町古書店にメチエ・シリーズが山積みされているのを見かけてしまい、一冊買わないといけない気になって購入し水曜日に読了したのが本書http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2584816。著者は霊長類社会研究からスタートし、人間の社会と文化の成り立ちについて、「自然誌的な記述」という人類学的な思考によって考えることを課題にしているという。ブッシュマンのコミュニケーション・大学生の日常会話・伝統芸能の練習風景を微視的に観察し、会話と身振りと身体接触の連動性について、詳細な記述がされている。十分に理解できたとは言いがたいが、長い時間にわたって「無駄話」に身体を丸ごと投入する「社交」こそが、人間にとってもっとも偉大な能力。社交とは、自己利益増大のために関係を操作する相互行為ではなく、そうした作為性の対極にある権力からの離脱を志向するもの。「人が決めたこと」の手前に横たわる「自ずから然り」の世界との境界に遡行することを希求する。という発想そのものは共感できるものである。文献史料を扱う歴史学では直接追求することはできない世界だが、その背後にある人間の生の姿を考える上では勉強になったといえる。それにしても今年の冬は実際に気温が低いのか、体が老化したのかやたらと寒く感じてしまう。年は取りたくないものだ。