wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

吉田元『日本の食と酒』

昨晩はこの辺りでも雪が降り積もりどうなることかと思ったが、朝起きたら雨に変わっており、電車も無事動いていたため、予定通りお座敷に出かける。相変わらずギャグもない難解で拙いしゃべりにおつきあいくださり、どうもありがとうございました。唯一の救いは専門家2名にはそれなりに納得していただいたことか。1月のお座敷は本日紀要への原稿依頼が届いていたが、今回は論文にするのに適した媒体が見当たらないのが残念。それはさておき、往復の時間がたっぷりあったため、電車読書のほうもすすみ、1991年初版でこのたび文庫化されたのをみつけ衝動買いしたものを読了http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2922169。前半部分は山科家の15・16世紀の日記と『多聞院日記』を紹介しながら、食生活に関わる記事に触れたもので、当方にとっては若干の記述を除き状況を再確認したものだが、品名が表にまとめられている点は便利。後半分は酒の醸造技術と火入れの比較史的評価、大豆発酵食品の展開を技術史的に論じたもの。特に火入れ(加熱殺菌法)について、パストゥールが発見する以前にあったという評価について、細菌の原理によるものではなく経験的に行われた不完全なもので、むしろ中国の紹興酒こそがより完全な方法であるとしするなど、技術史的観点から冷静に評価されている点は興味深い。あとがきほかによると著者は1947年生まれで、京都大学農学部水産学科を卒業した後に、微生物酵素の精製・応用研究を米国でのポスドク生活も含め続けていた。それが1978年にたまたま種智院大学で自然科学史の講師に採用されたものの実験室もない文系大学だったため、歴史研究に転身したという。専門と関係しない分野は全て非常勤で賄う現在と異なる環境が、異色の経歴を持つ研究者を生んだようだ。近年歴史研究に理系の知識は不可欠だと感じているが、昨今の成果主義の広まった状況では技術系研究者の協力を得るのは生態学を除いて困難で、どこかで考えてほしいところ。