wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

吉澤南『海を渡る”土兵”、空を飛ぶ義和団』

今日から講義再開。久しぶりで時間配分を間違い最後に残していた靖国が全くできなくなってしまったが、何とか終える。出席者は14回目にも関わらずいつもより少ないぐらいでやはり無理があるようだ。またノーマイカー・フリーチケット終了のため立ち寄っていた旭屋本店が昨年末で閉鎖になったため、地下鉄乗替の合間に寄ることができる本屋がなくなってしまった。本日は3Fまであるというのが売りの本屋に寄ってみたが、歴史書についてのセンスは全くなく2度と行く気にはならず本当に困ったものだ。電車読書のほうは年末に授業準備用の本を探しに行った際に、どこかで紹介されていたため一緒に借りてきたもので、明日返却しなければならず残りを自宅で読了したhttp://www.aokishoten.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-250-21002-0義和団事件について、北京公使館防衛とヨーロッパ人の生命と財産の保護のために結成された湾岸戦争時の「多国籍軍」にもなぞらえられた列強諸国の「妥協」と「共同行動」、非キリスト教国として唯一それに加わった日本の動向、列強の兵として動員された植民地兵=土兵の動き、帝国主義接触することで呼び起こされた土着文化復興運動としての義和団(銃弾にあたらないだけでなく、女性は空を飛び列強諸国を焼き払っていると観念されていたという)の性格を重層的に位置付けようとしたもの。ただし残念ながら途中までの遺稿をもとに出版されたもので、列強による義和団鎮圧作戦という全体の総括部分と考えられる手前で終わっており、前半部分についてもまだ手が入れられていたはず。永原陽子氏のあとがき前半部分を見るとまだまだネタはあるようで(列強諸国の軍人は植民地を転戦し弾圧経験が移植されていたという)、後半部分(違和感を感じたので調べてみると夫婦ということ)によると二人で1900年前後の帝国主義と民衆運動を、義和団南アフリカ戦争から描くという計画もあったようだ。大変興味深いテーマで実現されなかったことが惜しまれる。こうした世界の非対称性と共時性の重なりこそが本当のグローバル・ヒストリーというものだろう。