wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

荒井信一『コロニアリズムと文化財』

今週は火・金のみの講義だったが、ほかにも雑用などがあり、まだまだ引きこもりたい身としては、残念ながら電車読書で進みつつある。本来なら昨日に済ませておくべきなのだが、実家で飲み過ぎて電車を乗り過ごし、本日も早速のノドの痛みと夜の冷え込みによる体調不良でダラダラと過ごしてしまい、今にずれ込んでしまった。体力もかなり落ちてきたようだ。本書は書店で見かけた際には少し迷ったのだが、何となく衝動買いしてしまったもの。前半部分は日本の韓国支配の進展のなかでの、文化財の略奪と墳墓の破壊と盗掘、朝鮮植民地時代の文化財行政の問題点と考古学者による古墳発掘と略奪・盗品市場との近接性がまとめられている。二次文献に依拠したもので、それぞれの背景や問題点への突っ込みの弱さを感じる部分もあるが、概略を知ることはできる。後半部分は第二次大戦後の略奪文化財返還問題について、日韓関係を基軸としながら、アメリカの政策、イラク戦争による破壊、エジプト・インカなどからの出土品の返還問題など、世界の動向に触れられながら、帝国主義諸国における文化財持ち出しと、その精算への動きについて述べられている。こちらは全く不勉強だったので、21世紀になってもアメリカを中心としたコレクター市場が存在し、考古学的遺物の「自由な流通の促進」を要望するロビー活動が行われていること、マチュピチュ出土品をめぐる米・ペルー間の動向、2006年に日露戦争で軍が持ち去り靖国神社に納められていた北関大捷碑が、協定により韓国経由でもとあった北朝鮮吉州に返還されたこと、など初めて知る事実が多数あった。著者は1926年生まれで、もともとスペイン内戦の研究者だったはず。それが晩年になって戦争責任問題と関わるだけでなく、具体的諸問題について深めようとするそのバイタリティーには敬服させられるところhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1207/sin_k659.html。結局は論文にはとりかかれないまま、10月の講演会準備にシフトしてしまう。どうも境目地域ということで研究の空白になっているようで、いろいろ調べる価値はありそう。期待していた公募も無理そうで、次の書類作りにも取りかからなければならない。